歯医者

久しぶりに歯医者へ通っているのだが、この何とも言えぬ殺風景な匂いには、いつまで経っても慣れないものである。真っ白な診察室で、消毒されたスリッパを履き、消毒されたリクライニングの椅子に座ると、自分がとてつもなく汚い生き物のような気持ちになる。そして、この不潔な、悪臭漂う、髭もじゃらの怪物は、されるがままに仰向けになり、あーんと口を開くのだ。本当に恥ずかしい。口の中もそうだが、鼻の穴も丸見えで、鼻毛がひくひくと動いているのが自分でも分かる。最初の担当は、若い茶髪の女医だった。心無しか、石鹸の匂いがほんのりとした。ゴム手袋に包まれた女医の指が口の中に入り、ライトを当てられて、検査を受けた。自分はもう恥ずかし過ぎて漏れそうになったのだが、何とか耐えつつ、あんぐりしていた。そういうプレイだと思えば気持ち良くて、やはり漏れそうになった。

自分の歯は汚いようで、長期的な通院が必要とのことだった。欠けた奥歯も、虫歯のせいで穴が空いており、神経に触れるか触れないかのところまで来ていた。放っておけば激痛になるというから、治療に来て正解だった。茶髪の女医は最初の検査だけで、後は男の医師が担当となった。もしかすると同い歳くらいの、いかにも頭の良さげなこの医師は、痛かったら言ってくださいね、と随時優しい声を掛けてくれる。だが、大口を開けた状態では声など出せるはずも無いので、どうすれば良いか分からず、痛いときは眉間に皺を寄せるようにしている。

今日は麻酔を打ち、奥歯の虫歯を取り除いた。治療中はドリルのキュイインと甲高い音が脳内に響き渡る。自然とアウトレイジを思い出して怖くなる。目を開けたら北野武がこちらを覗いていて、ハッと驚いたのも束の間、口の中、ドリルでぐちゃぐちゃの血まみれにされる。

薬を詰めて、次回は神経を抜くらしい。麻酔に掛かった左頬は、腫れているような感覚だが、鏡を見ても変わらない。触っても何も感じないので、ふざけてセルフビンタをして遊んだ。本当は、耳鼻科にも眼科にも行かなければいけないのだが、そんな余裕は無い。

何もいりません。舞台に来てください。