「あなたがどうかは知らないが、わたしはいつも苦しい。根クラとか根アカとか、そういうことでなく、あくまで冷静に見つめたとき、わたしはいつも苦しい。あなたがどうかは知らないが、日常は苦しみの連続であり、労働や学業や病気や貧乏、対人関係の軋轢、ひとりぼっちの寂しさを抱えて、また、未来への不安、自己嫌悪、人間性の欠如、止まらぬ欲、数え上げるとキリが無いほどに問題は山積みである。どうあがいても人生一本では足りぬ。時折、小さな幸福や癒やしがあろうとも、寝て起きればまた苦しみが始まって、無限ループの闇は続き、脳の構造上、全てを忘れてリセットするには死ぬしかあるまいが、そう簡単には死ねぬ。未練と臆病、または少しばかりの可能性、『もしかすると幸せになれるかもしれない』といった僅かな光を頼りに、巨大な闇の中を回転しながら、わたしは溺れている。苦しみから脱却することはおそらく不可能で、仏教であれば悟りを開いて天界へ行くしかあるまい。そんなことはまず無理なので、結論、苦しみエンドレス、そんなわたしだ。あなたがどうかは知らないが。

ところで、さっきから見ていると、どうやらあなたも、やはり苦しそうだ。あなただけではない。おそらく皆そうなのだ。笑っていても、心の中では泣いてたり、怯えていたり、悩んでいたりする。みんな違ってみんないい、なんて糞みたいな言葉があるが、我々は、みんな同じくみんな苦しい。苦しみの無い人をわたしは見たことが無い。皆多かれ少なかれ、苦しんでいる。その点では、わたしもあなたも、同じだ。同胞だ。仲間だ。まなかだ。だから、どうぞこちらの布団にお入りください。そして苦しみをともに分かち合おう。抱き合おう。そうすれば、お互い少しは楽になるかもしれない。何も心配はいらない。どちらにとってもメリットのある話だ。さあ、おいでなさい。お布団の中に、お入りなさい。」

女は死んだ表情のまま、部屋を出て行った。口説き落とすことは出来なかった。苦しい。

何もいりません。舞台に来てください。