頼りない店主

「ライヴ喫茶 亀にいる。馴染みのスタッフとお客たちがいて、穏やかな時間を過ごしている。

そこへ、二人組のお客がやって来た。「結構狭いやんけ~!」明らかに温度の違う、男女である。歳は40代くらいであろうか、中年にも関わらず若作りをしている。女は魚みたいな顔面、パサパサの金髪ロングヘアーで、太腿丸出しのホットパンツを履いている。男はきつねみたいな顔、ツーブロック刈り上げ、色黒でガタイが良く、黄色のタンクトップを着ている。二人とも酔っ払っているのか、店内を見渡して、ぎゃは!と女の方が爆笑した。そこにいた全員が硬直する。自分は、奥のテーブルに案内した。

「もうあたしお酒飲まれへん。何かカクテルとかありますぅ?」「カクテルは無いですね」「まじ?ありえへんねんけど」「ええからカクテル持ってこいや。おれは温かい烏龍茶な」「何なん烏龍茶ってぇ!ありえへんねんけどぉ!げらげらげら」「おれは健康志向なんじゃ。ガタガタ抜かすなや。おい、カクテルと、温かい烏龍茶、はよ持ってこい」男は威圧的な態度をかましながら、煙草に火を付けた。瞬時に自分は、禁煙なんですけど、と言う(本当は喫煙可能であるが、嘘をついた)。これで出て行ってくれれば良い、と思ったのである。すると男は「あそこに灰皿あるやんけ。嘘つくな」と言った。酔っているのに冷静な奴である。自分は灰皿を差し出した。

キッチンに戻った自分は、ウォッカにソーダとオレンジジュースとグレープフルーツジュースと牛乳を混ぜて、謎のカクテルを作った。烏龍茶は無いので買いに行こうかと考えるが、何故こんな奴らのために買い出しに行かねばならんのだ、と思い、代わりに醤油に湯を注いだものを作る。「お待たせしました」内心、ドキドキしている。殴られるかもしらん、と思う。女は謎のカクテルを一口飲み、ん、飲みやすい、とほざく。男は醤油の湯割りをグッと飲み、あぁ美味い、とほざいた。舌がいかれているのである。

そのとき、店の扉の隙間から白い煙がモクモクと流れ込んできた。誰かが、霧?と言った。瞬く間に店内は霧に包まれて、真っ白になった。火事が起きたのかと思ったが、霧は冷たく、原因は不明である。皆があたふたと騒ぎ出す。自分は呆然と立っていた。おぼろげな視界、とにかく外へ出なけければいけないが、何も見えず、自分も皆も、泣きそうになる。「全員落ち着け!おれが扉を開けるからダッシュで逃げろ!」と叫ぶ声。先ほどの男だった。そして、その通り、男が扉を開けて、皆が外に出て救出された。

店の前。馴染みのスタッフもお客も、男に礼を言っている。そして男の冗談に、皆が媚びるように笑っている。心なしか、店主の自分は無視されているような感じがして、居場所が無い。あ~あ、と思う。」

夢の中に我が店が出てきたのは初めてのことで、妙にリアルな雰囲気があった。大切なものを誰かに取られたような、情けない気持ちになる夢であった。いつかこんな日がやって来たら最悪だ。身体を鍛えようと思った。

何もいりません。舞台に来てください。