独特な人たち

メジャーの劇場に立つ若手芸人たちが、我が店、ライヴ喫茶 亀の舞台に立つとき、何故か皆口を揃えて言うのが、亀のライヴは緊張する、怖い、気が引き締まる、鍛えられる、というもので、こんな薄汚いボロ店のどこにそんな要素があるのだと思うが、聞くと店がどうこうというよりも、ライヴの雰囲気、ひいてはお客さんの雰囲気がメジャー劇場と比べると非常に独特らしい。これは今まで何人もの芸人に言われてきた。

興味深いので詳しく聞くと、たとえば漫才ひとつ演るにしても、下手なことは出来ん、つまらなければ見透かされて笑わぬ、その代わりちゃんと面白ければそれだけで大いに笑ってくれる強いお客さんたちばかりだ、と言う。これには自分も嬉しくなった。別に自分が連れてきたお客さんたちでも無いのでおこがましい話だが、ふふ、何となく自慢気、店をしていて良かったと、純粋に思ったのである。

だが、だからここでのライヴが素晴らしい、などという単純な話では無い。こちらで滅茶苦茶ウケた漫才が他所では滑る、といったことも多々あるらしく、あかんやん、演者からすると何が正解が分からず困惑するのだという。それは単に演者の力量が足りていないだけの話だと思うのだが、つまりこれは、どちらが良いのか?どちらが面白いのか?といった話では無く、ともかく、ここで行うライヴの雰囲気が他所と比べると独特で、気が引き締まるらしい。独特とは、大勢とは違う己だけが持つ感性のことであろう。メジャーに属さずインディーズでずっと続けてきた自分がやっている場所なので、そうなるのは自然の流れかもしれぬ。

自分としては、主催ライヴなど含めて、独特にやろうなどという意識はあまり無い。それこそ、自分が面白いと思うことをただ演りたいだけで、むしろ初めて見る人でも楽しめるような、分かりやすく愉快なライヴになるよう、いつも心掛けているつもりだ。そしたら、こんなんなっちゃった。お客さんも、独特なものを見たいというよりも、面白いものを見たいから来ているだけだと思う。けれども、自分も含めてここに集まる人たちは、誰かに言わせると、独特な人たちらしい。らしいですよ。

何もいりません。舞台に来てください。