ひそひそ

声の大きな人間が苦手で、出来るだけ一緒にいたくない、と思う。自分は普段、枯れ葉が擦れ合う程度の声量で人と会話をする。そのため、事あるごとに、え?何て?と言われてしまう。ひそひそ話が好きな自分は、欲を言うと本当はもっと、ひそひそひそ…と話がしたい。語尾が聞こえないくらいの会話を、こっそりとしたい。舞台では、もう少し声を出す。あまり大きくても、面白く無い。カラオケでは、それなりに大きい声で歌う。つまり、大きな声は出るのだ。むしろ、出そうと思えば、なかなかの声量を出すことが出来る。けれども普段は、ひそひそひそ…。

自分は、常に声量のことを気にしている。他人の声量にも敏感になってしまう。電車など公共の場で声の大きなおっさんやおばはん、あれは銃殺にするから良いとして、リアクションが矢鱈と大きな人、ええ!?マジっすか!と大声で言われたりしたら、マジだよ、と殴りたくなる。女性で声の大きな人も気を付けた方が良い。布団で喘ぐときもこんなにうるさいのだろうか、と思ってしまう。大切な話も、大きい声でしてはいけない。爆音で遺産の話などされたら、もう要りません、と思ってしまう。挨拶がうるさい人も多い。こんちは、と礼をするだけで良いのに、おざっすぅ!!と言われたら、溜息が出る。芸人でも、ネタ合わせがうるさい芸人で面白い奴は一人もいない。小声でやりなさい、と思う。コンビニで、深夜にも関わらず、ありがとございやしたぁ!と大声の店員は、お客のことをちっとも考えていない。先日駅のホームで見かけた頭の悪そうな女学生はひどかった。大声で友達に、焼きそばパン美味しいやんな!と言っていた。焼きそばパンが美味いことなど周知の事実である。何もそんなに大きな声で言うことでは無い。きっとまともな教育を受けずに育ったのだろう。

といったように、自分は専ら小声派であり、すなわち、アンチ大声派である。大声の人は嫌い。風邪も感染りそうな気がする。近寄らないで貰いたい。大声の人間は全員集合して、遠くの方にあるラウド村にでも住めば良い。我々小声派は、ひそひそ村で暮らそう。

何を隠そう、自分の相方は、大声である。では嫌いかというと、そうでは無い。実は相方は、誰かがいると死ぬほど大声になるだけで、自分と二人のときは、驚くほどの小声男なのである。むしろ自分よりも小さいくらいの小声で、そのため、二人で打ち合わせをするときなど、それこそ枯れ葉、ひそひそひそ…くすくすくす…である。そして誰かが来れば相方は途端に声が大きくなり、自分は途端に声が小さくなる。性質が逆なだけで、二人ともに声量コントロール人間なのである。

何もいりません。舞台に来てください。