お悩み相談

お悩み
「私はどうも間違えやすいのです。たとえばピザと10回言ってから肘を指されると、膝、と言ってしまいます。それだけではありません。初めて行った店で、日替わり定食が塩鯖定食とチキンカツ定食、私は鯖もカツも好きなので、悩んだ挙げ句、チキンカツにしました。すると出てきたのは、ほとんど身の無い油衣まみれのカツで、ちらと隣客の塩鯖を見ると、ふっくら香ばしい、とても美味しそうな塩鯖なのです。よくメニューを見ると、この店は新鮮な魚が豊富な定食屋でした。間違えたな、と思いながらポソポソの貧相なチキンカツを食べました。

目の前に2つの道があり、どちらにしようかな、と歩き出すのですが、私が選んだ方は十中八九間違った道で、目的地までも無事に辿り着いた試しがありません。

後々気付く、いや、今もなお頭のどこかでは気付いているのですが、引き返して新たな道を選ぶことは不可能なので、ただひたすらに間違えた道を必死で歩いています。これで良いのかな?多分間違えているな、と心では思っていますし、ハッとした頃には、もう完全に正解を見失っています。立ち止まり、じっくり考えようと思っても、明日になります。もはや、生まれてきたことすら、間違いのようだった気がしてなりません。私は今まで、多少のズルもしてきましたが、決して道徳や法律に反したことはしていません。非力ながらも真っ直ぐ頑張ってきました。それなのに、どうして私だけ、こんな目に合わなければならないのですか。神様は無慈悲です。なぜ、正しい導きをしてくれないのだろうと思います。人生の正解が分かりません。島中さん、どうか私に、間違えず、正しい道へと進む方法を教えてください。」

回答
「名前の漢字を間違えています。そういう所です。原因は全てあなたにあります。私は今非常に不愉快ですが、相談にお答えしましょう。

悪者宇宙人が街を荒らしています。人間どもをやっちまえ~なんて楽しそうにビルを破壊しています。ところが、何やかんやありまして、とある少女の一言により、宇宙人は改心して、自分の過ちに気付くのです。そして、ボス宇宙人にビルを破壊しなさいと命令されるも、うぬぬ…、出来ません…、と苦悩します。

これは、人間側にとっては正しい話です。悪者を改心させたわけです。しかし宇宙人にとってはどうでしょう。あの頃は良かった。何の気兼ねも無く、楽しくビルを破壊出来た。けれども今は、ビルを破壊するのに躊躇してしまう自分がいる。その行動は間違いだと気付いたからです。

ビルを壊す、という行動自体は同じですが、思考が変わったために、宇宙人は己の行いに葛藤して苦しんでいるのです。つまり、ビルを壊すことが間違い、などというのは人間側の思考で、それを植え付けられたために、宇宙人は苦しむ羽目になったわけです。あの頃の、全盛期の宇宙人からすると、阿呆やん、壊せばええやん、と思うことでしょう。

つまり、あなたの言う間違いは、あなたの思う間違い、であり、あなたの行動が間違いだとは限らないのです。あなたが何をしようと私は一切責めませんし、むしろ受け入れますし、助けます。ビルを破壊するのならば、楽しく破壊するべきなのです。相手の名前を間違えるのならば、大いに間違えるべきなのです。

正しいor間違い、という基準を一度捨てて、楽しいorおもんない、で動くことを勧めます。目を瞑り、何が自分にとって楽しいことか、それは妄想でも構いませんし、夢でも構いません。他人の意思や世間の目を一切気にせず、ただ自分の中にある欲望を頭の中で形にします。自然とニヤけるまで、それを続けます。すると、如何に自分が、阿呆で、非常識で、すけべで、凡庸で、愚かで、ちっぽけな生き物かが、分かると思います。堂々と間違えた道を闊歩することが出来れば、幸せを味わえるかもしれません。

ポソポソのチキンカツは、何も間違えていない。むしろ我々は本来、ポソポソなのです。」

何もいりません。舞台に来てください。