ロボの白飯

夜、腹が減った自分は街へ飛び出した。もう何でもええからとりあえず適当に何か腹にぶち込みたい。空腹のときはしばしば思考停止に陥るもので、店選びなどしている余裕は無い。近場の、腹いっぱい食えるところ。となると、自ずと行き先は決まる。

近所にある「やよい軒」は深夜まで営業しており、様々な定食が食える。そして何よりも、白飯がおかわり自由、という、まさに貧しい空腹庶民にとっては売ってつけのチェーン店である。自分はここへ行くと、大抵、焼魚か、カツ卵とじ、などの安価な定食を頼む。店内には炊飯器が設置されていて、おかわりの際は各自好きなだけ白飯をよそうことが出来る。自分は、性根が腹ペコ吝嗇であるために、人目も憚らず茶碗山盛り2杯、多いときは3杯の白飯を、いつもセルフでよそい、平らげて、満腹ゲップで店を出るようにしている。

久しぶりに来たやよい軒は、アルコールスプレーの設置は勿論、店内も清潔に保たれて、席と席の間にはガラスの仕切りがなされていた。さて、券売機で買った味噌カツ定食の券をおばはんに渡して待っているときである。店の張り紙を見て驚愕した。

「新型コロナウイルスのため、店内ではさまざまな対策をしております。~~~~。なお、白ご飯のおかわりにつきましては、おかわり処のおかわりロボにてお願い致します。」

しっかりと二度見。クエスチョンマークが脳内を駆け巡る。おかわりロボやと?もう一度読み返す。白ご飯のおかわりにつきましてはおかわり処のおかわりロボにて…。何とハチャメチャな文章だろう。とにかく、白飯をおかわりする際は、炊飯器では無く、おかわりロボに頼めば良いのか。オカワリ、シマスカ?ソレデハ、シロメシヲ、ヨソイマス。右手にはしゃもじ、左手にはおひつ。そして両肩にはライス・ロケット・ランチャーが付いていて、そこから炊きたての白飯がドドドと連射される。よし。自分は、必ずおかわりをしようと思った。

味噌カツ定食が来て、ふがふが食べる。自分の頭はおかわりロボでいっぱいであるから、それはもう、こぶたの如く、急いで白飯を食べた。早くおかわりがしたくて仕方無いのである。わずか味噌カツ2切れで白飯を平らげると、口の周りを米粒だらけにしたまま空いた茶碗片手におかわり処へ向かった。さあ、出てこい、おかわりロボ。期待で胸が膨らんだ。

おかわり処には、おかわりロボが、鎮座していた。それは、四角い、製氷機のような、白いプラスチック製の、ロボだった。ロボ感はさほど無く、おかわりマシーン、と言ったところである。受取口に茶碗をセットして、4つあるボタン、一口、小盛、中盛、大盛、のどれかを押すと、ソフトクリームの機械のような要領で、排出口から白飯が出てくるシステムらしい。ロボは、喋ることも無く、目も口もライス・ロケット・ランチャーも無かった。なぁんだ。

空いた茶碗をセットして、中盛、を押した。すると、ぽろぽろぽろ、と炊けた白飯が落下してきて、茶碗に盛られた。それは、とても、嫌な感じだった。盛られた白飯がどことなく、餌、のように見える。あぁ、そうか、と思いつつ、席に戻り、食べた。おかわりロボが排出した白飯は美味かった。きちんと炊けているし、別段、味に変わりは無かった。そうして、また味噌カツをおかずに白飯を平らげた自分は、再びおかわり処へ向かい、おかわりロボに白飯を乞うた。今度は、一口、を押すと、ぽろ、と少量の白飯が落ちてきた。やっぱり何か嫌、と思った。もう一度、一口、を押すと、また、ぽろ、と落ちた。段々と情けない気持ちになってきた。

きっと、おかわりロボの体内には大量の炊けた白飯が詰まっているのだろう。当たり前のことを思いながら、がむしゃらに飯を食って、帰った。

何もいりません。舞台に来てください。