短歌

私は去年Twitterの個人アカウントを始めたのだが、未だにフォロワー数も少なく、かといってこれといった発信もせず、気が向いたときに何となく思ったことや浮かんだ言葉を毎回140字ちょうどで呟くためだけの道具にしている。そこで、あるとき一冊の本の感想を呟いた。詳しいことは秘密であるが、その本は「地上絵」という短歌集で、今では私にとってとても大切な作品となっている。短歌というものを知らぬ私であるが、これを読んだときは矢鱈と感激したので、感想をTwitterに書いた。その本には個人的な思い入れもあったのだが、それを差し引いても、載せられた短歌たちは力強かった。言葉がスッと刺さるような具合でこちらにイメージを浮かび上がらせてくる感じ、愛とやさぐれとユーモアに満ちた一冊で、読書を通じて私は勝手に救われたような気持ちになったのだった。

ある日、それは、我が店ライヴ喫茶 亀の喫茶営業の日、いつものように寝癖頭で夕方、開店に遅刻した私が自転車で向かうと、店の前に一人の若い女性が立っていた。眼鏡を掛けた学生風の人で、見ない顔だった。自転車を停めた私は、お客さんですか?今開けますわ、どうぞ、とぶっきらぼうに言って店の鍵を開けた。彼女は、あ、どうも、とか言いながら私に続いて中に入り、入口あたりで立っていた。どうぞ適当に座ってください、ちょっと片付けるんでお待ちを、と言った端からまずは一服、いつものように煙草をくわえる私に、彼女が物腰柔らかく言った。あの、実はですね。

彼女は、自分がその歌集を作った歌人本人であること、Twitterで私の感想を読んだこと、そして私が店をやっていると知り大阪に来たついでに寄ったこと、感想がとても嬉しくて救われた気持ちになったこと、などを話した。私は煙草を落として、驚きのあまり、エ!え!と大きな声を出してしまった。すぐに寝癖を整えようとJKみたいに両手で前髪を抑えて、マジやばいんですけど!だが、寝癖はより跳ね上がり、眠気は一気に吹き飛んで、脇からは変な汗が出た。

その後、単なる痛ファンと成り下がった私は、あの歌集の素晴らしさを熱弁しつつ、スゴーいこんなことってあるんですネ!と何度もはしゃぎ、また、店の冷蔵庫に直筆サインを頼むなどして一連の舞い上がりを見せたわけであったが、彼女は良い意味でイメージと違い、とても気さくな、それでいて腰の低い方で、しかし短歌にかける想いや覚悟が言葉の端々から感じられるような人であった。今思うと、私は時折失礼なことなども聞いたりしていたかもしれぬ。一通り会話をした後に、いつかここで短歌のライヴをしませんか?とまで口走っていた。そんな、自分にとっては、奇跡というと大袈裟であるが、何ともまあ面白い経験をした一日であった。

と、それが今年の1月の話。何だかんだで冬が終わり、春はあっさりと過ぎて行き、もう言うてる間に夏ですわ。寝そべって、うだつの上がらん湿り犬、八十八夜はどんな夢見た?そんなわけで、今年の夏にライヴ喫茶 亀で短歌のライヴをやることになりました。詳細は後日!

何もいりません。舞台に来てください。