ベイビー、愛してる

昨日は敬老の日であった。自分もたまには老人を敬うかと思って、今日は昼間から祖母の家へ行った。祖母は一人住まいで、老犬(パピヨン15歳)とともに暮らしている。姉と、姪(11ヶ月)も来るというので、姪に何か買って行ってあげようかと思ったが、貧困叔父さんの自分は結局手ぶらで行った。

祖母はそれなりに元気であったが、犬の元気が無く、夏の暑さにうなだれている様子だった。自分はこの犬が好きで、また、この犬も自分が好きなようで、ずっと隣にいる。相思相愛である。姪は少し大きくなっていた。アンギャ、マァマ、などと言いながらぷにぷにの身体を揺らしている。姉に言われるがまま、自分がその小さな身体を抱きかかえると、案の定、姪は犯された少女の如く号泣した。きみは泣けばええと思っているのかい。泣いても何も解決しないよ。と囁いたが、おそらくまだ意味は理解出来ないようで、姪はひたすらに泣き喚いていた。

犬と戯れながら昼寝をしていると、姉の思惑で、姪が身体の上にのしかかってきた。そして自分の顔面を、ぺち、ぺち、と殴りながら笑っている。先程とは打って変わって、幸せそうな顔である。あのね、暴力では何も解決出来ないよ。と伝えたが、やはり分かってはくれなかった。非力な赤ん坊の平手打ちなど別段痛みも感じないので、再び自分は昼寝をした。

しばらくして目をゆっくりと開けると、目の前には姪の顔があった。仰向けの自分を、床に手を付いた状態で上から覗いているのである。可愛いベイビー、と呟き、じっと姪を見つめた。姪もこちらを汚れなき瞳でじっと見つめている。そして次の瞬間、姪は、パァパ、と言ったのである。姉は、この人はパパやなくて叔父さん、とすぐに訂正したが、姪は自分を見つめて、パァパ、パァパ、と言い続けた。

なぜか自分は、泣きそうなほど、幸せな気持ちになった。泣いても何もならないことくらい、分かっているぜ。けれどもベイビー、愛してる。我がベイビーが自分を親と認識してくれたんだ。家族に乾杯。寡黙に感涙。すると隣で寝ていた犬が起きて、わん、と吠えた。途端に我がベイビーは恐怖に戦慄して、再び号泣。それを見て犬も、わん、わん、と威嚇。あぁ!ごめんね、ごめんね。自分は、犬と赤ん坊の双方に謝りながら、ベイビー、どちらも愛してる、と心から思った。

何もいりません。舞台に来てください。