忌まわしき梁

今日は難波にある汚いビルの一角で行われたライヴに出演した。入り時間に少し遅れた自分は会場に入ると、共演者の芸人たちに簡易な挨拶を済ませて、後は狭い楽屋で一人で静かに座っていた。ここの楽屋にはソファと灰皿があり、更に他の芸人たちは自分に遠慮しているのか、なぜかあまり楽屋には入って来ない、ので、自分としては申し分無い。ただ、ひとつ難点があり、天井から矢鱈と低い場所に梁が設置されているのである。そしてそれがちょうどソファの真上にあり、背の高い自分は、ソファで一服後、バッと立ち上がった拍子に思い切り脳天を梁にぶつけた。ゴォン!頭が朦朧として、クラクラとした。あいててて、と阿呆のようなリアクションをしたが、生憎、誰も見ていなかった。そういえば前回ここに来たときも頭をぶつけたな。グロッキー状態になった自分は一旦外へ出て、新鮮な空気を吸おうと深呼吸して、また楽屋へ戻った。梁には注意を払いながら、着替えを済ませて、今夜の晩飯のことなど考えている内に、ライヴは開演、ぼんやり他の人たちの舞台を聞きながら、2、3、5、7、11、13、17、19…と素数を数える遊びをしていた。そして、そろそろ出番です、よし、一丁やるか、と立ち上がった拍子にゴォン!と再び頭を強打した。あまりに学習能力が無いことは百も承知だが、何よりもこんな低い場所に梁があることを呪った。舌打ちを連続で23回して、一刻も早く家に帰りたい気持ちを抑えながら、出番を終えた。舞台は、楽しかった。お疲れー、なんて言って、他の芸人とも少しばかり無駄な会話などした。この後、再度悲劇が訪れることも知らずに…。楽屋に戻った自分は、私服に着替えて、煙草に火を付けて、晩飯は餃子にしようかな、と思いながら欠伸をした。このとき、頭上に静かに佇む忌まわしき梁の存在を、自分は完全に忘れていた。舞台終わりの弛緩された精神と、餃子のことで頭が一杯だったのである。米も炊いてあるし、餃子を焼いて、豆腐サラダでもつまみながら、ゆっくりと過ごそうか。さて、と…。ゴォン!

何もいりません。舞台に来てください。