ともに冬を越そうな

近頃、矢鱈と口の中を噛む。飯を食っているときに舌や口内の肉壁をガッと噛んでギャッとなって、血が滴り落ちるのである。一度噛むと、何日もの間ずっとヒリヒリしている。以前からこうしたことはあったが、近頃は何故か噛む頻度が増えた。一体どういうことなのだろう。自分の歯が伸びて尖り出したのだろうか。もしくは、口内の肉壁が膨らんでいるのかもしれない。

耳鼻科通いは続いている。先日、念願のレーザー治療を施した。驚くほど呆気無いものであった。鼻の穴に拷問器具のようなものを突っ込まれて、レーザー光線を当てて粘膜を焼くのである。少し焦げ臭い香りがした。鼻水が垂れるほどの症状は無くなったが、劇的な変化は起きていない。

以前、とある女性が貸してくれた漫画が面白くて、その作者の別の漫画を古本屋で買った。やはり面白かった。作者の性別が分からず、調べると、女性であった。名前の雰囲気から何となく男性ではないかと思っていたので、少し意外であった。女性作家だということを踏まえながらもう一度読むと、確かに女性の描いた漫画だという気がした。漫画の世界は、やはり素晴らしい。漫画家を諦めたのは、絵が上手くないことと、集中力が続かないことが、主な理由である。子供の頃はよく漫画を描いていた。毎回犯人を間違える探偵の漫画や、4コマ目に必ず車に轢かれる4コマ漫画、覆面レスラーの漫画も描いた。どれも、駄作の未完だった。描き始めると一旦は集中するのだが、少し休憩を挟むと面倒臭くなって、終いにはぐちゃぐちゃと落書きをして遊んでしまうため、物語が完成しないまま終わることばかりだった。いつか真剣に漫画を描いて、ひとつくらいはマトモに読めるものを完成させたい。

完全にニコチン中毒となってしまったのか、以前よりも喫煙量が増えた。深夜、煙草を吸おうと思って覗けば空箱だったときの、あの苛立ちは何なのか。舌打ち連発で髪を掻きむしりながら、灰皿に残されたシケモクを漁る自分は、何と哀れな人間か。煙草は体内への害悪は勿論、周りへの害悪もひどい。おまけに服にも臭いが付く。そして何よりも口臭である。たとえば舞台前、寝不足で、空腹で、ストレスフルで、煙草を吸いまくった自分の口は完全にお臭(おくさ)となっている。自らでも感知出来るほどのお臭であるから、観客はもとより、隣にいる相方には申し訳無く思う。ちなみに相方は、舞台前には必ずフリスク的なものを2、3粒口に放り込んでいる。気持ちの悪い男だ。

久しぶりに映画でも見るかと思って、「ファニーゲーム」というのを見た。知り合い曰く、ただただ胸糞の悪い映画だよ、とのことであったが、全然そんなことは無かった。暴力を直接映さずに暴力を表現するのは、北野武の映画でも使われていた手法である。確かに胸糞は悪かったが、なかなかの傑作だと思った。ユーモアのセンスも自分の好みである。腹立つ顔でキョトンとする、何なんお前、という感じのダルい奴、そいつとの会話がどうも的を得ず上手くいかない。それがしつこく繰り返されて、マジでもうええってお前、みたいな、そういう種類の笑いであった。言葉の無力さと圧倒的な暴力の物語。最低で最低な気分になりたい人にはオススメしたい。

かにくんは、元気にしています。ともに冬を越そうな。

こないだ実家に帰ると、姉家族も来ていた。自分は、一歳の姪っ子にメロメロである。今回も、抱っこして、二人でいちゃついた。顔を近付けて、ツーショット自撮り写真を20枚ほど撮った。すると彼女は、だぁ、と言って、頬にキスをしてくれた。もうこれは、恋人といっても良いのではないか。あまりに幸せ過ぎて、吐きそうになった。そのうち大きくなれば、きっと叔父さんは嫌われるのだから、今のうちに幸せを噛み締めておこうと思う。あまり噛み締めると、また口内が血まみれになるので、気をつけよう。

何もいりません。舞台に来てください。