恋するペンギン

これは、自分の家にある電気ヒーターの裏面である。そろそろ暖房も要らないだろうと思って、ひっくり返したところ、ハッと驚いた。

どう見ても、照れ笑いを浮かべて頬を染めるペンギンの顔に見えるのである。一度そういう風に見えると、もうペンギンにしか見えない。これは、表向きには電気ヒーターであるが、それと同時に、ペンギンでもあるのだ。それにしても、このペンギンは、なぜ照れているのだろうか。

これは自惚れかもしれないが、もしかすると、このペンギンは、自分に恋をしているのではないだろうか。冬の間中、ペンギンはずっと自分に背を向けていた。恋心を胸に抱きつつも、相手の顔を見ることが出来ないというのは、思春期特有の照れ隠しであるとともに、一抹の寂しさを覚えることでもある。それでも、この純情なペンギンは、あくまで自分に背を向けて、決して振り向こうとはしなかった。そうして冬が終わり、春が訪れる頃、役目を果たし終えて振り向いたペンギンの目の前には、惚れた相手、つまり自分がいた。ペンギンは、きゃっ、と思って、喜びが溢れるとともに、思わず頬を赤くした。見つかっちゃった!あの、あの、…。と何か言いたげである。何と可愛い奴であろうか。自分はこのペンギンを戸棚に仕舞うこと無く、そのまま部屋に置いておこうと思った。

何もいりません。舞台に来てください。