亀の終焉

2015年2月に開店して、今までやってきた「ライヴ喫茶 亀」が、年内で閉店することになった。自分が経営する小さな店である。先月、建物の持ち主から、ビルを取り壊すことになりましたんで、すんまへんけど出て行ってくれまへんか?と連絡が来た。本当に、そのような喋り方のおっさんであった。

勿論自分は、そう言われましても困りまんねや、と粘った。が、向こうも、そう言われましても困りまんねやと言われましても困りまんねや、と粘り、話し合いの末に、自分は退去することを決断した。現在、ビル内には自分の店しかテナントが入っておらず、二階三階は空き部屋である。ビル自体の維持費も掛かるため、取り壊した後は土地を売却する算段らしい。古いボロいビルであるから、いずれはこうなるだろうと予想していたものの、借金もぼちぼち完済出来そうな様子で、近頃また店が楽しくなってきたところだったので、バッドタイミングではある。

一体これからどうなってしまうのだろうか。ここまでやってこれたのが奇跡のようなもので、出演者、スタッフ、お客には感謝してもしきれないほどだ。亀の終焉を悲しんでくれた人も大勢いた。そのような声を、嬉しく思う。自分は決して、一人ぼっちでは無かった。

移転して存続するべきかどうか。備品は揃っているが、新たな物件が見つかるかは分からない。何よりも金が掛かる。勿論、資金はほとんど無い。自分の中では、覚悟決まらず曖昧なままである。悩みの種は、結局、金。世の中、金の亡者ばかりだ、金金金、なんて愚痴っても仕方無い。いろんなことがあったねえ、なんて思い出に耽っても仕方無い。これを機に、面白いことを生み出すしか、道は無いのである。

とはいえ、この4年間、自分はほとんどの時間をこの店で過ごしてきた。つまりそこが無くなると、正直、困るというか、こまどり姉妹というか、勘弁小太郎というか、多摩蘭坂、なのである。表向きにはクール・ボーイを演じていたが、今月はずっと、内心は号泣うさぎであった。ようやく公表出来て、ほっとしている。

自分は、一体これから、どうなってしまうのだろうか。追い出されて、借金を抱えて、無職放浪の果てに、やはり一人ぼっちになってしまうのだろうか。不安は募り、自慰の数も減ってしまった。こうした危機的状況のときには、寅さんを思い浮かべることにしている。

「お前さん、何を浮かない顔してんだ。ほら、見てごらんなさい。この店を目当てに、色んな人が集まってるじゃねえか。ある人は音楽を楽しみ、ある人はご飯を美味そうに食べている、漫才で笑ってる人もいれば、あっ!寝てる奴までいやがる。揃いも揃って、みんな、いい顔をしてるねぇ。このわけが、分かるかい?みんな、この店が好きなんだよ。この店が好きだから、こうしてわざわざ足を運んで来るんだ。それはね、お前の人徳でもあるんだよ。お前は立派によくやってる。おれにはよぉーく分かる。だけどね、みんなのお陰でここまで来れたってことを、それだけは忘れちゃいけないよ。一人ぼっちなんて言っちゃあ、みんなに失礼だ。大丈夫、いざとなりゃあ、みんながお前の味方をしてくれるさ。心配はいらねえ。嫌なこと言ってくる奴がいりゃ、おれが張り倒してやる!だから、な、もう浮かない顔はするな。笑えよ。」

来年以降のことは、全くもって未定である。

何もいりません。舞台に来てください。