完全素敵な夜

我が店、ライヴ喫茶 亀での最後のライヴ、『超ナイトオブコメディー』を終えた。外は雨が降っていて、テレビでは漫才師の日本一を決める大会が行われていた。何もこんな日にライヴをやらなくても、という日であった。自分には、それら全てが面白く感じた。こういう日にこそ、見せられるものがある。ライヴは面白かった。久しぶりに、イメージが思い通りいくような出来だった。完全素敵な夜となった。

終演後、沢山の人が声を掛けてくれた(いつもならば自分はほとんど誰にも話しかけられない)。馴染みの人や懐かしい人、遠方から来てくれた人もいれば、キリンもタヌキも、ヌートリアもいた。ふわふわと飛んで来た天使もいた。

舞台では阿呆なことばかり言っていた癖に、終演後には、いやあ、ほんとに、どうも、ありがとうございます、また、ええ、どうも、はい、ありがとう、など言って、自分はひとつも面白いことを口にせず、ひたすらに喜びを噛み締めた。出演者たちとはいつも通り、お疲れー、と言いながら酒を飲み、誰一人しみじみとすること無く、一人、また一人と帰って行った。

その頃テレビでは、昔よく一緒にライヴをしていた漫才師が優勝して、日本一の漫才師となった。自分は悔しい気持ちなど微塵も無く、凄い、格好良い、最高、と思った。何人か残った出演者たちで、日本一の漫才を店のスクリーンで見た。皆、げらげらと笑いながら、最高の夜や、と口々に言った。それからはもう滅茶苦茶で、誰かがグラスを割って、誰かがゲロを吐き、誰かが感電して、煙と炎と酒が竜巻になって、全員、窒息して死んだ。そうか、もうこの場所とはお別れなのか。完全素敵な夜に幕を降ろして、死体を片付けたら、一人で泥のように眠ろう。

何もいりません。舞台に来てください。