雨音

終わらない雨音を聴いていると、何だか気だるい心持ちになってくる。今まで積み上げてきたものが全て流されていくようなイメージとともに、焦燥と不安がまとわりつく。びしょ濡れのネズミがベランダで震えている。

雨音が好きな人もいるらしい。知り合いでも、そんな女性がいた。彼女は部屋の中で窓の向こうの雨音を聴いていると、精神が穏やかになり矢鱈と落ち着くのだ、と豪語していた。滝の音はどうだと言うと、それは違うあくまで雨音でなければならない、と言うので、自分は、台風がやって来たときのガタガタと窓を叩く音の方が良いではないか、と主張したが、それに至っては恐怖でしかない、と軽蔑してきた。それから二人で、音のフェティシズムについて議論を交わした後、そんなことはどうでも良いから一緒に寝ようか、となった。

二人で布団に入り、消灯して眠ろうとしたところ、彼女が何やら携帯をいじくってアプリを起動した。それは、雨音がBGMとして流れるアプリだった。これが無いと眠れないと言う。それはもう病気ではないか。枕元から疑似の雨音を流して、彼女はすやすやと眠りだした。勿論、自分はまったく眠ることが出来ぬ。暗闇の中で、ザァザァと鬱陶しい雨音だけが流れていた。自分は無性に苛ついたが、何とか意識を別次元へ誘導して、やがて眠りについた。

防波堤が破壊されて、水が氾濫していた。逃げ惑う自分は洪水に流されて、泳ぐことも出来ずに溺れ死ぬ。助けてくれ、助けてくれ。深夜に飛び起きた。完全なる悪夢だった。枕元では、未だに雨音が流れ続けている。憎悪の気持ちが込み上げた自分は携帯の電源をオフにして暗闇の向こうに放り投げると、隣で気持ち良さそうに眠る女の顔を見た。そして、この女とは金輪際会わないことを誓って、再び眠った。

何もいりません。舞台に来てください。