何か面白いことは無いものかっ、と思案しても思い付かぬので、ただ、じっとしている。そうして夜になり、少しさびしんぼう、チョコレートなどを貪り食って携帯の画面を見つめる。けれども実は、平気。根っこが楽天的な体たらくの自分は、明日は晴れるやろか、なんて呑気に天気予報を調べたりしている。

今日はしとしと雨模様で、路面も濡れていた。夜の街は人気も無く、不気味に静まり返り、雨音も不穏な様子であった。近所のコンビニで夜働く中国人の娘、最近毎日のように顔を合わせるのだが、いつも微笑みながら、ありがとっござんしたー、と言ってくれる。背の低い、色白で、丸眼鏡を掛けた、キュートな人である。夜勤にも関わらず、疲れた様子を一切見せぬ。自分も、どうも、と陰気な声を出して、会釈するようにしている。いつもご苦労さま、なんて気の利いたことのひとつでも言えれば良いのだが、きも、と思われそうで、恥ずかしくて、言えない。自意識過剰ではあるが、そう思うのだから仕方無い。もっと言うと、自分は、彼女に顔を覚えられているような気がする。その証拠に、近頃の彼女は、自分が銘柄を言うのと同時にサッと棚から煙草を取り、にこやかに手渡してくれるのである。もしも認識されているとすれば、こんなに恥ずかしいことは無い。なぜなら毎晩夜中に、煙草やチョコレートやカップ麺を買いに来る、黒コートのひょろ男である。ろくな大人なわけが無い。だけど、きみ、この陰気なひょろ男は、本当は、舞台に立てばなかなか面白い奴なんだよ。

何もいりません。舞台に来てください。