また東京

台風も過ぎ去り、自分は懲りずにまた東京へライヴをしに行った。単独ライヴをひとつと、オールナイトライヴをひとつ。今は帰りのバス車内である。案の定、肉体は疲労の極地であるが、全然眠れない。

行きの新幹線は、切符を買っていたのに、寝坊して乗り過ごした。起きた時間が、出発の時間だったのである。自分は、本当に、そうした当たり前のことが出来ないときがある。溜息をついて、再び寝た。しばらくして、むにゃむにゃ起きて、準備をして、駅へ向かい、また、新幹線の切符を買った。金が吹き飛んだ。余りに自分が情けなくて、あぁ、今回は最悪の東京になりそうだ、と思った。そして、駅のトイレで嘔吐した。

新幹線の中でも、悪夢のような感覚に陥っていた。寝坊したことを、未だに悔やんでいた。喫煙ルームで煙草を吸いすぎて、口の中がヤニで粘っている。おそらく悪臭を放っているに違いない。だが、もう何もかも臭くなれ、と思って痰を咀嚼した。

東京、恵比寿駅という所で降りて、サ店で珈琲を飲みながら、大丈夫、きっとうまくやれるさ、と何度も念じた。どうせライヴが終わる頃には最高気分になっている。それをおれは知っている。大丈夫、お客を信頼すれば良い。きっと楽しい雰囲気になるはずさ。念のお陰もあり、自分は背筋を伸ばして会場へ向かった。しかし、入り口が分からず右往左往して汗だくになった。ややこしい。だから東京は嫌なんだ。洒落乙にキメれば良いと思いやがって、田舎者には冷たい街。背筋も自然と折れて、口からは悪臭が漂った。

単独ライヴは無事に終わり、体調も快復、そのまま新宿へ移動し、オールナイトライヴも無事にやり終えた。漫才CDを買ってくれた方、我が店への移転資金に寄付してくれた方、何とも有り難く、心から嬉しく思います。

朝、口内は悪臭で顔面は泥であったが、気分は最高で、コマ劇前の広場では朝っぱらから乞食たちがダンボールを敷いて宴会、そこから少し離れた場所を陣取り、我々芸人たちも乾杯、そのまま地べたの宴会へと雪崩込み、皆、笑顔だった。

まったく、どういうわけなのか。笑いの力を改めて思い知らされた。ひょっとすると、笑いは、我々に与えられた最後の手段なのかもしれない。最低なものを見て、最高になれるなんて、最高ではないか。

何もいりません。舞台に来てください。