東京の春

二日間のライヴだった。また性懲りも無く、東京へ行った。昼間の新幹線で東京駅へ行き、中央線に乗り換えて中野駅へ、駅から15分ほど歩いたところにある地下の牢獄劇場で「ヤング寄席2」というライヴをして、皆で中華料理を食べた後、自分は大久保駅近くにある安宿に泊まった。今回は、何が何でも新宿へは行かぬ。人糞だらけの新宿という街が、自分は心底嫌いだ。だから隣駅の大久保にある宿を取った。宿はなかなか悪くなかったが、眠れなかった。

朝10時にチェックアウトをする。いくら何でも早過ぎる。本当は、16時頃まで宿に居たかった。近所にある老舗のサ店に入ってモーニングを頼んだが、店の婆、祝日はモーニングやってないの、なんて言いやがる。自分は珈琲とホットケーキをそれぞれ単品で頼んで、千円ほど取られてしまった。寝不足で朦朧とした頭を抱えて、珈琲をがぶ飲みしながら、さて…、と計画を練る。新宿へは行きたくないので、中央線に乗り込み逆方向へと向かった。吉祥寺駅。自分は東京だと、中央線沿線が好みで、中でも、吉祥寺が好み。ベタだろ。田舎者だろ。でも、やっぱり、井の頭公園が最高じゃないですか。今日は祝日、ハモニカ横丁は人がごった返している。見上げれば、異様な青空が広がっている。ぬくぬくだ。その癖、矢鱈と風が強く吹き荒れて、街は春分の喧騒を醸し出していた。

渋めのサ店に入り、名物のカレーライス900円を食べる。肉と芋がゴロリと転がる、苦味とスパイスのカレーだった。井の頭公園に着くと、強風で砂が舞い上がる。目に入って涙が止まらない。池のボートを号泣しながら眺めて橋を渡る。ベンチで少し寝たら、気持ちが良かった。マフラーも手袋も要らなかった。自然文化園で、ぶたと、羊と、猿と、ペンギンと、リスと、カピバラと、ヤマアラシと、コウモリと、水鳥などを見る。子供が多くて、騒がしくて、小さな殺意が芽生えた。桜が咲いていた。

夕方、池袋駅へ。商業ビルや巨大娯楽施設やチェーン店が乱立した街に、人々が溢れかえっていた。ひとつも面白くない街で、吐き気を催す。これじゃあ新宿と同じではないか。ライヴまではまだ時間があったので、珈琲でも、と、良さげなサ店を探すものの、これといった店が見つからない。サンシャイン通りを行ったり来たり、足腰も限界に来て、仕方無くチェーンのサ店に飛び込む。店内は混雑していて、頭の悪そうな若者たちの会話がごちゃ混ぜの爆音で響いている。その中に、街裏ぴんく氏が一人静かに座っていた。今夜のライヴの競演相手である。あ、どうも、奇遇すね、なんて言っていたら、そのふたつ後ろの席には、相方が座っていた。偶然にも三人が同じサ店で居合わせたのである。なんや、皆ここに来たんか、そう、池袋には全然サ店無いやろ、しょうもない街や、などと文句を言いながら暇を過ごして、夜は劇場でライヴをした。「街裏ぴんく・ヤングの競演会プレミアム~我らの言葉に理由は無し~」。物凄く楽しかった。

ライヴ後、珍しく自分は、劇場外にいたお客さんと立ち話をした。面白いことが純粋に好きな人、が、お客さんで良かった、と心から思う。嬉しくて、照れた。自分は、演者もお客もある意味同類というか、似たような人間だと考えている。結局のところ、つまらない日常から抜け出して、心から笑いたいのだ。現に、ライヴ前の自分は最低な気分で、ただ池袋を恨んでいるだけのつまらない男だったが、ライヴ後は最高の気分で、池袋?ええがな、許したろ、とさえ思ったのである。見に来てくれていた芸人たちと安酒場でビールを何杯か飲んで、特にライヴの感想を話すことも無く、さようなら、無事に深夜のバスに乗り込んで、帰路につく。疲労困憊の自分は、揺れるバスの車内で流石に少し眠れたのは良いが、しっかりと悪夢にうなされて、目覚めるのだった。

何もいりません。舞台に来てください。