夏を呪う

今年の夏は猛暑です、記録的な暑さです、といった報道がされている。それ、毎年言うてますやん、と関西の人は口を揃えて言う。

記録的な暑さ、などと言うから、これまでの夏と比べると今年の気温は桁違いに高いのかと思う。が、決して報道をアテにしてはいけない。何せ、毎年のように記録的なのだ。「記録」という言葉に「的」を付けることで、誤魔化しているように感じる。曖昧的なニュアンスに騙されることなく、己の体感で明確的に答えを出さなければならない。

はっきり言って!今年の夏は、記録的も記録的、完全無欠の猛暑である。

今までの夏がどれほど暑かったのか、そんなことはどうでも良くて、昔の話を今更掘り起こす気は無い。最高気温だとか高気圧だとか体感温度とか、数字で語れる問題でも無い。とにかく、今は暑すぎる。もしかしたら去年も同じことを言っていたかもしれぬが、暑さのせいで全部忘れてしまった。

「だから夏は嫌いなのだ。向日葵も威圧的で大して綺麗では無い(梅の花を見習いなさい。あの、可愛げで愛おしくぽつりぽつりと咲く花)。かき氷なんぞ頭が痛くなるだけで味もへったくれも無い。プールがあるのに、いちいち海で泳ぐな、海は眺めるものだ。蝉はうるさく、気味が悪い。夏休みの宿題は多すぎる。小麦色のギャルは好きだが、半ズボンの男はムカつく。自分は、もしも四季から夏が消えても一向に構わないし、むしろ、望んでいる。今年から春秋冬の三季節でルーティーンします、と言われても、大賛成するだろう。」

昼が過ぎて太陽が沈むまで、家で一人、ぶつくさ愚痴を言う。パンツ一丁、冷房を効かせた部屋で布団に寝転がる以外、何もさせて貰えない。服を着れば余計に暑くなる。しかし服を着なければ、外へ出ることは許されない。服を着て、外へ出たために、熱中症で倒れた人もいるという。太陽という化け物に脅されているような気分だ。街にはウイルスも蔓延していて、つまり、外界は未知なる危険で溢れている。まるで映画「ミスト」のようではないか。自由を奪われるこの身の辛さを噛み締めながら、夏を呪う。やがて化け物が眠り、夜になる。涼しいのかと言うと、決してそんなことは無く、やはり暑い。夏よ、いい加減どこかへ行って欲しい。

何もいりません。舞台に来てください。