近頃は不眠症がひどくて、夜になっても朝になっても眠れない。昨日も舞台が終わり、夜中に帰宅してからギュンギュン目が冴えてきて、日が昇って、チュンチュン聞こえても、まだ、起きていた。何をしていたわけでもない。ただ、部屋の真ん中で、ぽかんと座っているだけで、時間だけが流れた。腹が減ったなぁ、腹が減った、今日は何を食べたんやったっけ、と思い出す。が、なかなか思い出せない。昼に鯖と白飯食べて、あれ?それだけしか食べてないんか、いや、他にも何か食べたはず、ううん、覚えてない。そら、腹減るわなあ…。

いい加減にしなさいッ!と、天井裏からマリアが言う。可愛いマリア、強気なマリア。返事代わりに投げキッスを送った。もうッ!と言って、赤面マリア。年増が照れるな五重塔。豆腐小僧が窓の向こうから覗いている。怯えた感じでこちらの様子を伺っている。ミートソースを口に付着させながら、おどおどとしている。おい、おれが気付いていないとでも思っているのか。おれは全て気付いているぞ、この野郎。どうせお前は朝飯にミートソースを食べたのだろう。全くしょうがない奴だ。傾く床は油まみれで、山積みの雑誌が突如、紫の煙を吐いた。どうでもいいよ。そんなことより、欠伸のしすぎで喉が渇いた。五月は枯渇。勿論、腹も減っている。いくらビールを探しても見つからない。クローゼットには素麺しかなかった。逆さ時計は目を回して踊り続けている。隣の部屋では猫が交尾をしている。非行家畜が。畜生、おれもギターでも弾こうではないか。押入れからエレキギターを取り出して、ジミヘン・コードを抑えると、ぽよよん、ぽよよん、あッ!弦まで素麺じゃないか。道理で陳腐な音しか出ないはずだ。外はブルースカイ。おれが陳腐なブルースを弾いている間に、お向かいのプリ坊とデベ坊は仲良く出掛けた様子。いってきまぁす、いってきまぁす。るんるんランドセルを背負って手繋ぎスキップ。子供に比べて大人のおれは、いつまで経っても成長しない。スキップのやり方も忘れてしまった。おまけに体中が泥まみれ。転がるミニ死体を蹴飛ばして、風呂場へ行った。裸一貫、昆布〆の男。熱湯を浴びて、髪を洗う。あッ!リンスをしてからシャンプーをしてしまった!こうなりゃヤケだ。ぎゃくぅぎゃくぅ、と言いながら、茹でタコまみれの浴槽に飛び込んで、タコダンスのデカダンス。風呂を上がると、何やってんだこの野郎、豆腐小僧が勝手に部屋に入って冷蔵庫の中を覗いていやがる。コラァ!と言ったらビクッ!、その拍子にあろうことか手に持っていた木綿豆腐を落としやがった。床が油と豆腐でべちゃべちゃ状態。この野郎ッ!豆腐小僧は窓から飛び出して豆鳥とともに飛んで行った。最悪なんですけどぉ。ベランダでギャル的な眼差し、ひとりぼっちで朝の太陽を見つめた。

午前9時になっていた。疲労も限界、空腹も限界、ようやく眠れそうな気がした自分は布団に入ろうと思った。そのとき、TSUTAYAから借りている映画、『マジック・イン・ムーンライト』を見つけて、見れば、返却期限が昨日までじゃないか。厳密にいうと、今日の朝11時まで。ぐ、と頭を抱えながら、靴を履いて、チャリを飛ばして、颯爽とモーニング・ライダー。

何もいりません。舞台に来てください。