宿題とヘアゴム

「誰かの家の2階の和室にコタツがあり、そこで彼らは蜜柑を食べながらテレビを見ていた。自分はその脇に立ち、季節はずれやな、と思う。シマナカさんも食べますか?と左くん(仮名)に聞かれて、いや大丈夫、と自分は和室を出る。自分は、算数の宿題を今日中に終わらせないとヤバい、国語社会は明日以降に回すとして、とりあえず今日算数やな、と心の中で思っている。下の階に降りたらどうせ子供たちが騒いでいるし、困ったな。仕方無い、ここでやるか、と廊下に座り込み、鞄から計算ドリルを取り出したとき、目の前、おそらくトイレから出てきたであろう瑠璃沢さん(仮名)に、あの、シマナカさん薬持ってませんか、と聞かれる。どうも顔色が悪い。無いっすね、と言うと、ちょっと欲しいな、となるくらいの良い傘をあげるんで、頭痛薬ください、と取り出したのはカラフルな折り畳み傘で、広げるとキティちゃんとクレヨンしんちゃんが肩を組み虹を指差す絵がプリントされていた。ちょっと欲しいな、と思う。薬無いんすけど今度あげるんで、その傘くれません?と無茶を言うと瑠璃沢さんは、良いですよ、その代わり今度会ったら必ず薬ください、と言って傘をくれた。そして彼女は階下に降りていった。子供たちの騒がしい声が聞こえる。

扉を開けると、二段ベッドと勉強机があり、おそらく誰かの子供部屋、誰もいなかった。ここなら落ち着いて宿題やれる、と思って勉強机に座った。さて計算ドリル、開いたもののやる気が起きぬ、その前に煙草でも吸おうかと思った、そのとき、シマナカさん、と、か細い声がして、びくっと驚き振り向くと、二段ベッドの上段から駒子ちゃん(仮名)が覗いていた。自分の驚いた様子にふふふと笑っている。何してんのこんなとこで。ゆっくりしてました。

狭い二段ベッドの上段で、二人で秘密の時間を過ごしているような気持ちになる。伸びすぎた駒子ちゃんの後ろ髪を、自分がヘアゴムで結んであげている。サラサラの髪はとても良い匂いがした。こっそり、ずっと嗅いだ。ヘアゴムは何度か失敗しながら何とかふたつくくりにして、どうかな、一応出来たけど、と言うと、彼女はこちらに向き直り、ありがとうございます、と言った。う、カワイ、と思った。これ傘、めっちゃ可愛いやつ、良かったら、きみ要る?と、人から貰ったものをすぐあげようとする、浅はかな男。駒子ちゃんは、傘…、と困っていた。

そのときガチャ、と誰かが部屋に入ってきた。階下で遊んでいた小学生の悪餓鬼3人である。集団行動から抜け出してきたのか、ほんまあいつだるいよな、まじで分かるわ、などと言いながら、勉強机や二段ベッドの下段に座る。上段の我々は布団を被って息を潜めた。何となくこいつらに見つかれば、大騒ぎして皆に吹聴して妙な噂が出回るような気がしたのである。これなんなん?勉強机に置きっぱなしの計算ドリルを見つけた悪餓鬼たちは、笑いながらイタズラに落書きをし出した。へへへ!お前やりすぎやって!ええねんええねん!とビリビリ破って、こんなとこに置いとく奴が悪いやろ!自分は、もうええ、と諦める。隣で駒子ちゃんが笑いを堪えている。その横顔を見て、何だか幸せな心持ちになり、あぁ算数今日までやったのにな、と小声で言うと、駒子ちゃんが耳打ち、シマナカさんって、なんでずっと宿題やってるんですか?」

色んな人が登場した夢であったが(現実の知り合いもいれば、夢のみの人もいる)、そして家の中、結構な密空間であったが、誰もマスクはしていなかった。今のところまだ、夢の中でマスクをしていたことは無い。いずれはどうなるだろうか。

何もいりません。舞台に来てください。