がっかり

自分は週に一度、学童保育のアルバイトをしている。小学校へ行き、放課後の教室で子供たちの安全を見守りつつ、一緒に折り紙を折ったり将棋を指す、という仕事である。

地下鉄に乗って通勤しているのだが、恥ずかしいことに自分は、二回に一回の頻度で遅刻をしている。これに乗らなければ間に合いませんよ、という最終の電車に、どうしても乗れない。いつもギリギリのところで、乗れず仕舞いなのである。

毎回家から地下鉄の駅まで猛ダッシュして、階段を駆け下りて、切符を買い(自分は未だにイコカ・スイカなどの電子切符マネーを持っていない)、改札を通り、ホームへと駆け下りると、ちょうど電車の扉が閉まり、プシューッと出発してしまう、といった具合。そうなると遅刻は確定なので、自分は舌打ち連打の後、小学校へ電話を掛けて、スミマセン、今、電車に乗り遅れてしまって、あの、5分ほど遅れます、急ぎますので、何卒、と弱々しく言い、すると向こうの職員の方は、分かりました、気をつけてお越しくださいね、と優しく言ってくれるのだが、それがまた情けない。

電話を切ると、ひとしきり自己嫌悪に陥り死にたくなるのだが、電車に揺られているうちに、こんなことで死ぬのは止めておこう、と思い直し、小学校の最寄り駅に到着する頃には、もうどうせ遅刻はするのだ、5分も10分も大して変わらないだろう、と開き直り、ゆっくりと煙草で一服した後、神妙な面持ちを作り込んでから小学校へ入る。事務室では既に事前のミーティングが始まっており、スミマセン…、と言って席につく。他の職員の方は皆優しくて、これまで自分は一度も怒られたことが無い。陰口こそ叩かれているかもしれぬが、誰も自分を直接叱りはしないのだ。もはや皆さん呆れておられるようで、大人として恥ずかしい。

そんな人間であるから、子供に対してマトモなことなど言えるはずも無く、たとえ子供が何か悪いことをしても、説教はおろか、注意もままならず、自分は、まぁまぁ、などと言いつつ欠伸をしている。すると子供も馬鹿では無いから、あ、コイツあかん大人や、と見抜くのであろう、他の職員たちは〇〇先生と呼ばれる中、自分だけ子供たちから、オッサン、ヒゲ、シマナカ、などと呼ばれている。つまり、完全に舐められている。

とある3年生の女子などは、自分の顔を見るなり毎回嫌悪感丸出しの顔で、こっち来んといて、あっち行ってよ、髭剃りや、きしょいで、と言う。そのたびに自分は情けない笑顔で、ごめんごめん、と離れるようにしている(その癖、たまに後ろからくっついてきたりもするから、女は幾つになっても訳の分からぬ生き物だ)。

さて、遅刻の原因を考えてみると、原因はやはり自分にあった。というか、自分以外にはあり得ぬことだった。

この日は14:30に出勤で、最終間に合う電車が14:09発。つまり14:00前に家を出れば確実に間に合う。自分はきちんと昼前には起床し、諸々の準備や着替えを早めに済ませて、時計を見れば13:10頃。おいおい、早すぎるぜ。まだまだ時間があるじゃねえか。そう思って、リビングで珈琲を淹れて一服をした。そして何気なく携帯でYouTubeを見ていたら、「WOW WAR TONIGHT」のライヴ版を発見し、おおっ、と思って感激した。いつの間にか自分はギターを手に取り、夢中で耳コピしながら、小室流の転調コードに気持ち良くなって、がっかりさせない期待に応えて素敵に楽しいいつもの俺らを捨てるよ!と熱唱しているうちに、時は過ぎて、14:00を越えていた。ヤバッ、と思ってギターを放り投げて、出掛けようとしたのだが財布が見つからない。あれあれと探して見つけたときには14:07。猛ダッシュの後に、遅刻、というわけである。

どうすれば良いのか。もう、どうすることも出来ない気がする。遅れ遅れて、取り残されて、ノロマな亀が歩いて行く。がっかり。

何もいりません。舞台に来てください。