私は昔から手汗のひどい人間だった。平静の際でも手のひらはじんわりと湿っており、緊張すると嫌な温もりと共にぬらぬらと濡れてしまう。冬場の乾燥した時期以外は、基本ぬらぬらで、夏場など特にひどい。昔、友達と握手したとき、さっと手を引かれて、手べちゃべちゃやん、と言われたことを今でも覚えている。それが一種のコンプレックスとなり、だから、握手や手繋ぎが未だに恥ずかしい。舞台終わりなどに、握手してください、と言われることはほとんど無いから良いものの、時折何かの会の別れ際、パワーマッチョな人に、握手!と言って手を差し出されたときなどは、どぎまぎ必死にズボンで手汗を拭う。

私の手は大きくて、指は長く、男性にしてはそれほど太くない。また、皮膚も綺麗である。だから人に手を褒められることもあって、漫才の後に、手綺麗でした、と感想を言われたことまである(それは案外嬉しかった。あまりに予想外の感想は嬉しくなる)。また、私の手は、頑丈でもある。荒れたりひび割れたりもしない。天ぷら油が飛んでも結構平気で、たとえ火傷しても跡にならない。それなのに気弱な梅雨の手だから、嫌になる。

本当は、誰かと会ったとき、別れるとき、何ならいつも挨拶代わりに握手がしたい。好きな人と歩くときには 、手を繋いで歩きたい。だけど、自分の手に触れてぬるっとしたら相手が嫌な気持ちになるんじゃないかな、などと思ったりする。恋人とは手を繋ぐけれども、それ以外は出来るだけ人と手が触れぬように気を付ける。でも、あんまりそんなこと気にしても、仕方無いよな。コンプレックスを盾に、勝手に辞退するような真似はよそう。ぬるっとしたらゴメンねと、笑って気楽に握手だ。


何もいりません。舞台に来てください。