残る

心斎橋の三ツ寺にある「ガンジャ」が潰れたと聞いて、寂しく思う。昨今の時流には逆らえぬ事情があったらしい。この怪しげなバーへは、自分は今まで三回しか行ったことが無い。それも、もう10年以上も前の話で、まだ19歳の頃だった。爆音。怪しさに塗りたくられた夜。未だ記憶に根付いている。

三ツ寺会館は、大阪では有名なディープ・ビルである。ガンジャというのは大麻の名称で、真っ直ぐ非合法な店名が恐い。友達がバーでバイトを始めた、と言うので、どんなもんかしら、と何も知らずに行った自分は、三ツ寺の階段を上がり店のドアを開けるとき、なんかヤバ、こいつはとってもサイケデリックだ、と思った。さて、怪しげな扉を開けて中に入ると、何というか、第一印象…、ほぼ真っ暗で何も見えなかった。バーというものは総じて照明が薄暗い印象があるが、ガンジャの場合、薄暗いのでは無く、暗かった。微かに赤い光が灯っているのみで、人の顔など見えぬ。後は、ロックが大音量で流れていた。店内はカウンターのみで狭く、ごちゃついた印象である。狭い店ほど色々な物を置きたくなるのだろうか。不気味な香りが漂い、シドロとモドロが手を繋ぐ中、自分は友達を見つけて安心した。

生まれて初めてのバーであった。自分は確か、そこで初めて電気ブランを飲んだ(京都の女学生みたい)。隣に座っていた女性とは、そこで出会って、半年後に別れた。鉄人さんと呼ばれる店主は、にこやかな、いかれた風貌の人だった。雪印珈琲をがぶ飲みしながら笑顔で立っていた。帰りしなには、カメラをこちらに向けて、オッケーオッケーなんて言いながらパシャパシャと写真を撮ってきた。あれは何だったのだろうか。当時の自分は、そういうちょっとヤバそうなところ、に興味があり、いや、あるにはあったが、それ程ハマることも無く、丸福珈琲の方が落ち着くな、と思い、自然とフェードアウトしていった。ガンジャ主催の、服部緑地野音で行われたライヴも行った。あれは、とても良かった。

全部ただの思い出である。潰れても、残る。

何もいりません。舞台に来てください。