大阪の春

段々と春が近付いてきた。電車の窓から見る花々も色付いて美しい。とはいえ、自分の格好は未だに、セーター、コート、マフラー、マスク、ニット帽、である。昼間は確かにぬくい。晴天のときなど、少しばかり汗をかくほどだ。しかし、自分は知っている。春の夜の寒さを知っている。おれは知ってるんだぜ。

ガタゴトと揺れる車内、向かいに座るJKは、頭にピンク色の耳カチューシャを付けていて、頬には色とりどりの派手なラメメイクを施している。真黄色のカバーを付けた携帯をいじりながら、鼻をひくひくさせている。どこからどう見ても、阿呆である。おそらく友達、もしくは恋人と、ユニバーサルスタジオジャパンにでも行くのだろう。

ニット帽とマスクの間から、不審者の如き目つきでJKを凝視しながら、自分は春を想った。お花見、桜、卒業、入学、新卒、元号、全てが新しく生まれ変わる。不安ばかりの未来だけれど、一旦そのへんは置いておいて、今はただ、春に身を任せるのも良い。

JKは桃谷駅で降りた。ユニバーサルへ行くのでは無かったようだ。コリアンタウンでチヂミでも食べるのだろうか。JKの座っていた座席には、いつの間にか丸禿のおっさんが座っている。おっさんは、ぬめぬめの頭を搔き搔き、ビー玉の如き目玉をきょろきょろとさせながら、ぷしゅう、と鼻息を漏らした。あぁ、生まれ変わった、と思った。

何もいりません。舞台に来てください。