漫画家になりたかった

漫画家を諦めたのは、絵が上手くないことと、集中力が続かないことが主な理由であった。二つ上の姉は絵を描くのが好きで、ノートによくオリジナルの漫画を描いていた。姉の漫画は細かい線の絵で本格的なタッチが為されており、小学生ながらに上手だったと思う。後に姉は絵画教室へ通い、芸術大学へ進学した。

さて、鼻垂らしの小坊だった自分にとっても、漫画というものはとにかく大好物であり救いのエンターテイメントであった。四六時中、漫画を読み読み、夜には布団の暗闇で漫画を読み過ぎて視力が落ちた。勿論、姉の漫画の愛読者でもあった。そして、あぁ!自分もやってみたい!と思い立ち(これは今でもそういう節がある)、姉を真似てオリジナル漫画を自分でも描いてみた。だが、完成したそれを恐る恐る姉に見せたところ、一言、おもんない、と言われて、その後も冷笑嘲笑罵詈雑言の嵐で落ち込んだことを覚えている。

それは「名探偵コナン」のパロディーで、誤認逮捕ばかりする探偵の漫画だった。阿呆な探偵が、犯人はあなたです!と言って、いや、あの、違いますけど…と気まずくなった途端にまた誰かが殺される、といったことを繰り返すギャグ漫画、のつもりであったが、姉には全く響かなかった。ストーリーの粗や矛盾を全て拾われて、途中から一切探偵が出てこなくなることも指摘された。

中学生になってからもいくつか漫画は描いたけれど、どれも駄作だった。描き始めると一旦は集中するのだが、少し休憩を挟むと面倒臭くなって、終いにはぐちゃぐちゃと落書きをしてしまう。己の才能の無さを痛感した自分は、漫画家になる夢をスパッと諦めた。

何もいりません。舞台に来てください。