推しのいる暮らし

己の人生を、生活を振り返ったとき、自分には推しというものがいなかった。アイドルなどにのめり込んだことは一度も無く、誰かの活動や表現を欠かさずチェックして応援するなどしたことが無い。推しがいたら、さぞ楽しかろう。推しを想って一方的にドキドキしたり、感激したり、怒ったり、悲しんだり、そんな生活の楽しさを自分も味わってみたかった。

片想いの恋と違って、推しになる対象は一人でなくとも良いし、二次元でも良い。恋心はどちらかといえば秘めごと、こっそり胸の奥で想ってるイメージがあるが、推しの場合は己のアイデンティティーのひとつとして表明することも少なくない。SEX Animalsのリュウヤくん推しです!などと言って、日頃から自分が如何にリュウヤを好きか、リュウヤの良い点を並べて、時には他のリュウヤ推しの人とキャッキャしたり喧嘩などもしつつ、リュウヤにのろけて、一途にリュウヤを追いかけていく。リュウヤ最高なんすけど!はあ!端正なる横顔!マジ濡れますわ!とか言って公然とはしゃぐこと自体が、楽しい。リュウヤもそんなファンたちのことを裏では出目金などと言って悪態ついてはいるが、やはり本心では嬉しいはずだろうし、活動のモチベーションにもなっている。リュウヤの顔が、佇まいが、性格が、作品が、好きで、やがてリュウヤという存在そのものがエネルギーとなる。推しは、癒やしであり、快楽であり、夢であり、欲望である。それらは全て最終的に自分へと帰結する。リュウヤを推すこと自体が己の存在価値に繋がるのだ。

自分も舞台に立つので、いつも来てくれる人や、写真をパシャパシャ撮ってくる人、手紙をくれる人などがいる。たまに、推されてるのかな、って思う。勿論悪い気はしないが、誰かの期待に応える気の無い自分は、いつか飽きられるような気もする。

ガチ恋という言葉もある。これはリュウヤにガチで恋をしてしまっている人のことで、単なる推しファンより大変かもしれぬ。リュウヤに振り向いて欲しい気持ちが、自分とリュウヤが恋仲になっている未来が、心のどこかに潜んでいる。楽しいだけでなく、辛くなることもあるだろう。だが、推しと結婚する人もいるくらいだから、本気を出せばいつかはリュウヤと結ばれるかもしれぬ。そうなるためには相当な忍耐と覚悟が必要だ。本気の片想い。一歩間違えればストーカーじみたことにもなり得るし、精神が崩壊する可能性だってある。適度なバランスを保ちつつ、リュウヤを愛しまくってアピールするしかない。決して死ぬまで諦めないことが肝心である。

あくまで身勝手に、好きなだけ、推す。究極なる偏愛の形は、ある意味ピュアだが、それゆえ破滅的なものだ。人生、って感じがする。自分が好きなのだから、それはもうどうしようもない。リュウヤが死ぬ前に、あなたのピュアな想いを爆発させれば悔いも無かろう。

さて、自分も誰かを推してみたい。アイドルでもアニメキャラでも良いから、前のめりに追いかけてみたい。だけど、そこまで夢中になれる存在がいないので、これからはPure Soul Princessの祈ちゃん推しでいきます。祈ちゃん、まじ天使。まじキュート。踊りは勿論最高なんですが、何が凄いって昔テニス部で全国大会出てるんですよね、だからあんなに華奢なのに実は誰よりもスタミナあるんですよ。こないだのフェスでも他メンバーが息を切らす中、平気で最後までくるくるしてたし、その上超絶笑顔でピースしてたでしょ。プロ中のプロです。なのにインタビューで、私みたいなもんはゴミ箱ですから、とか言っちゃう。あの暗さと明るさのギャップが堪らん。祈ちゃんは、まじミカエル。こないだ、ファンを全員めくらにさせたい、って呟いて炎上してたけど、どう考えてもそんなに批判することじゃない、祈ちゃんはある意味ああいうことを言うキャラでもあるし、盲目的に応援してくれってことを伝えたかっただけなのに、言葉尻だけで非難する人は困ります。でも、祈ちゃん、その後も絶対謝ったりしないでしょ。ライヴでも何故か眼帯配ってたし。やっぱ気が強い。芯がぶれない。でもファンには優しい。こないだ握手会のとき、きみの葬式には行くからねー!って言ってくれた。そんなこと他のファンには言わないのに、自分にだけ言ってくれた。その場で自害したろかなと思った。最高すぎてその日は晩飯も食えませんでしたわ。時折見せる狂気が素敵、その辺のセンスが、祈ちゃんは完全アルティメットなんですよ。ここだけの話、夢の中で祈ちゃんと愛し合ったことがあるんです。詳しくは言えないですが、それはもう、ドキドキでした。永遠に眠り続けたかった。テレビの生放送で、今パンツ履いてないんです、とか。あんなこと聞いたらこっちも変な想像しちゃうから!別に普段からそういう目で見ているわけではないです。念の為。祈ちゃん、中華好きらしい。毎日中華でも平気なのだ、って呟いてたし。いつか手作り餃子を包んであげたいな。で、おれが祈ちゃんを包みたい。祈ちゃんの苦しみとか、おれならやさしく包み込むように理解出来ると思う。今までこれだけパワー貰ってきて、祈ちゃんにはいつか勝手ながら恩返しをしたい、なんて考えたり。あぁ、流石に調子乗り過ぎかな。でも、正直、他の人たちより、自分が一番強い気持ちだと思う。祈ちゃんに幸せになって欲しいって、心から思う。あぁ、なのになんであんな、しょうもない、リュウヤとなんか付き合うんだ。何が熱愛発覚だ。糞が。祈ちゃん、男の見る目だけはまじ終わってる。中学のとき担任と付き合ってたとか言うし、多分、その辺のだらしなさ?みたいなものがある。恋愛に関してはまじでゴミ箱な気がする。よりによってリュウヤ、ちょっとありえへん。それはちょっとまじ地獄。と言って、ナイフを握る。めった刺しにされたリュウヤは即死だった。翌日ニュースで事件を知ったリュウヤ推したち、怒り狂って祈ちゃんを襲う。悲しみ狂って燃え尽きる。おしまい。

何もいりません。舞台に来てください。