お引越し

近頃は何となくルーティン気味の暮らし、なるべくどこにも行かない、誰にも会わない、家と我が店を往復するだけの髭もじゃらな日々を送っている。起きて、自転車で店へ、パソコンをカタカタやって、自転車で帰宅して、寝る。一連のルーティンを繰り返すうちに、時間感覚、曜日感覚などが消失してしまい、また、物をよく失くすようになった。あれ?が口癖、涎ベッタリのおとぼけさんに成り果てた自分は、その日の事務作業を終えて夜、のろのろと自転車で家に帰った。

マイホームで自堕落な時間を過ごした後、かにくんの様子でも見て寝るか、と、我が家のペットである沢蟹の水槽(という名の100均ラック)を覗くと、居ない。どうせまた土管の下、と見るがやはりイナイ。小石を掻き分けても、どこにも姿が見当たらない。あれ?アァ!

沢蟹に脱走癖があることは以前このnoteにも書いたが、ここ半年ほどは基本的にじっとしていて大人しかった。引き篭もりのニートのような様子で土管下の悠々ライフを送っていた彼も、春の陽気に覚醒したのだろうか、主人がおらん間に黙って一人旅に出たのである。自分は胸騒ぎを抑えつつ、かにくん、かにくん、と言いながら辺りを探して、探して、探しまくった。涙を堪えて、慎重に探すが、そう見つからぬ。阿呆ぉ、と呟いた。ベッドと壁の隙間でカラカラに乾燥したかにくんを見つけた頃にはもう夜中だった。片腕ハサミを少し傾けて、ギャルがピースする感じの、チョリース的な姿で硬直していた。自分が、おおぁ!と叫んで近付くと、さささ、と動いた。

すぐさま捕まえると、かにくんは片腕ハサミでギュッと指を挟んできて、激痛が走ったがお構い無しにと掴んで、水槽に放り投げた。ステイホーム!外出自粛!と都知事ばりに叫んだ自分は、魚肉ソーセージの欠片とネギの切れ端を入れた後、罰としてお気に入りの土管を撤去した。朝見ると、かにくん、小石を集めて自作の小屋を作り、その陰で不貞腐れていた。

ホームセンターで新しい水槽と水草とカルシウム豊富な餌を買った。ついでに我が店用のゴキブリ駆除剤とネズミ退散スプレーも買って(先日屋根裏からカタカタと歩く音がしたのだっ)、沢蟹を生かすための道具とゴキブリやネズミを殺すための道具を合わせて買うのは如何なものかと思いつつ、夜、かにくんのお引越しをした。

これでもう逃げ出す心配も無い。クリアなので、いつでも見られる。御満悦の主人であった。

何もいりません。舞台に来てください。