一人暮らし

初めて一人暮らしをしたのは多分22歳くらいの頃、自分は実家も大阪市内にあるため、必然的にさほど遠くない街のアパートの一室を借りた。不動産屋はマジで詐欺、何も知らぬ若造は内見をした後まだ契約もしていないのに、とりあえず前金で10万要るよ、みたいなことを言われて、その場で金を下ろして渡した。今思うと滅茶苦茶である。

家賃25000円水道代込の6畳ワンルームでユニットバス付き、クローゼットやベランダも無く日当たりも無い、それでも気分は浮かれていた。引っ越しは実家の車で往復して一人で運んだ。その晩はスーパーで惣菜と寿司とビールを買って、段ボールの机で食べた。次の日、祖母と二人で電気屋やニトリへ行き、家具を買ってもらった。そのとき買って貰った小さなテレビは未だに使っている。

時折友人も遊びに来たが、基本的には一人ぼっちである。何時に起きようと、寝ようと、誰にも何も言われない。好きなときに好きに飯を食って、やりたいことは何でもした。アルバイトをしつつ、月に何度か舞台に立った。夜、ぶらぶら銭湯へ行くのは楽しかった。毎日起きればきちんと布団を畳んだ。大体一ヶ月くらいすると、無性にムラムラ寂しい夜がやって来る。その頃は恋人も女友達も皆無だったので、あぁ、こんなとき、添い寝でもしてくれるおなごがいればと夢想した。

家賃や光熱費は滞納せずにきちんと払った。なるべく部屋は綺麗に保った。上の階の部屋にはロシア人の美女が住んでいた。洗濯機は無いのでアパートの屋上にあるコインランドリーで洗濯をして、そこで干す。一度台風と大雨が来て、服が全部ぐちょぐちょになった。部屋には小さなゴキブリが死ぬほど出た。初めはギャッと言っていたが、そのうち何も思わなくなり、指でつまんで殺した。後は、携帯の電波が入らずしばしば圏外になった。電話をするときはわざわざ外へ出なければならず、しかしそれもすぐに馴れた。一度ユニットバスの浴槽の底がバキッと割れて修理をした。その際、修理費で5万ほど請求されたのだが、そんな金は無かったので、払わなかった。故意に割ったのではなく老朽化で割れたため自分に払う義務は無い、と言い張って管理会社と戦った。電話口での戦いは一ヶ月ほど続き、最終的に管理会社のおっさんは、ほんならもう2万でええから払ってくれ、と言い出し、そこに勝機を見た自分は、どういった計算で自分が2万の負担をすることになったのか見当がつきません、明確な理由を書類にして送ってください、などと強気に出て、結果、何も払わずに済んだ。不動産屋に言われるがまま10万渡していた頃とは大違いであった。一人暮らしをしてから初めて知ることは大いにあり、社会というものの中で生きることを学ぶことが出来た。2年足らずで家は解約した。

何もいりません。舞台に来てください。