いらっしゃいませ

我が店、ライヴ喫茶 亀は、ライヴが全然無いので、ただの暇な喫茶店である。それでも毎日ぽつぽつと人がやって来る。もう店を始めて5年以上になるが、よく考えたら一度も「いらっしゃいませ」と言ったことが無いような気がする。

始めた頃はみすぼらしい貧乏男ばかりが集まる場所で、とあるラッパー(同い年で、背が低く、勿論恋人などいない、ゴジラに踏み潰されるのが夢、ラップもそれほどやっていない、スマホばかり見ている、今はポルトガルにいるらしい)からは「非モテ喫茶 亀じゃん」と揶揄された。確かにモテとは無縁の男たちが、小銭を数えながらジンジャーエールを飲み、原一男の話などをしていた。

それから人の流れも色々とあり、よく来る人、たまに来る人、もう来なくなった人、様々で、近頃は女性の割合も多くなった。黒ギャルは来ない。10代の人もいれば、20代、30代、40代、50代、60代と、全世代の人が来る。自分としては嬉しい。若い人ばかりの空間も、年寄りばかりの空間も苦手なのである。とはいえ、本当は年齢なんぞ関係無くて、楽しいものは楽しいし、美味いものは美味い。個々が勝手にくつろいでいる様子で、だから、誰が来ても構わない。来る者拒まず去る者追わず精神の自分は、欠伸をしながらあなたが来るのを待っている。今まで出入り禁止を言い渡したのは一人のみで(単なる個人的な嫌悪であった)、後はもう、誰でもお越しください、特別私は何もしませんが、気が向いたら、どうぞ、いらっしゃいませ。

皆が帰った後に一人、誰もいない店内で、珈琲を淹れて飲む時間。この時間を大切にしたい。

何もいりません。舞台に来てください。