ユウコとユウリの恋バナ

沖縄の帰りの飛行機は夜、自分は通路側の席で、隣には女性が二人座っていた。二人ともぺちゃくちゃ喋る関西系高飛車アラサーだったので、嫌だなと思った。周りは皆静か、眠る人もいる機内で彼女たちは、結論から言うと離陸から着陸までの二時間弱をずっと男の話に費したのだった。もっと沖縄の思い出、たとえば海綺麗やったなとかシーサー可愛かったなとか素麺チャンプルー美味かったなとか、そういう会話をせえよ。性欲満点みたいな香水の匂いで嘔吐しそうになりつつ、自分はこれも機内の暇潰しと目を瞑り、彼女たちの恋バナに聞き耳を立てていた。

自分の隣のロングヘアがユウコ、その隣のショートヘアがユウリ、という名前のようである、どうやら二人とも現在は恋人がいないらしい、ユウリは最近とある男に口説かれているがその男は結構キモい奴で、友達付き合いなら許せるが恋愛対象にはなり得ない、ユウリは初対面や何人かのグループだと空気を悪くするのも違うから一応相手の男を褒めたり優しく接するように意識している、そのせいで男が勘違いして近寄ってくるのだがどいつもこいつもキモい感じで口説いてきたり身体目当てだったりするから鬱陶しい、ユウコ曰くユウリは「キモい男製造機」、ユウコの方はというと結婚願望はあるが良い相手がおらず、好きでも無い男とラインのやり取りをしているが楽しくはない、今は仕事第一で暮らしているがいずれはそれなりの金を持っていてなおかつ自分にはあまり干渉してこない穏やかな感じの男と結婚したいと思っている、ユウコユウリ共に男と女の友情は成立しないという考えで、仲の良い友達だと思っていた男が酒の勢いで肩を寄せてきた瞬間に、うちのこと女として見てたん、と思って冷める、流れで一回はヤるけどそこからは続かず何となく何も無かった感じでフェードアウトするのはあるあるかもしれない、お互いパートナーや子供が既にいて家族にも公認の男女ならばひょっとすると友情もあり得るかもしれないとのこと、ユウリ曰くユウコの恋人に合うタイプは優しくてユウコのことを大切にしてくれる男が一番らしい、そしてユウコもユウリの意見に、マジでそれな、と納得の様子、ユウリは高一のときに少し付き合った先輩のことが未だに忘れらず、だが今はもう連絡すら取っていない、ユウコもユウリも今の仕事は別に苦でも無いしそれなりの稼ぎもあるがいずれは転職もしたい、それよりも一番は結婚したい、という考えで一致している、ユウリは犬を飼っている。

黙って欲しい。上空何千メートルでする会話では無い。目を開けると小窓の外は深い闇で、浅い会話は永遠とも思える冗長さで続いていた。けれども自分も二人の浅はかな恋の哲学を聞きながら、自分自身の恋と、また女性について思案した。ユウコとユウリは、どう考えてもろくな人間では無いし、結婚も当分は難しいような気がしたが、けれども、少なくとも共に沖縄へ行くような間柄である。だから二人には今後とも、出来れば死ぬまで、仲良くうるさくありふれた恋バナを続けていて欲しい。

何もいりません。舞台に来てください。