誰かを想う

きみが私の知らない私を知っているように、私もきみの知らないきみを知っている。と思いたい。お互い自分のことには気付いていなくて、だから素敵だと、思いたい。

私は一人でいるのが好きだが、一人では生きていけない人間である。いつも誰かのことを想っている。恋は勿論、そうでなくても、誰かのことを考えている。ふと、今何してるだろうかと古い友人を思い出したりもするが、だからといってこちらから連絡などは滅多にしない。ただ、想うばかりである。

眠れない夜、誰かのことをまた少し考えてみる。それは会ったことの無い人で、まあ女の子なんですけど、黒髪で眼鏡を掛けていて、歳は25歳、漫画が好きで、自分のことをブスだと思っている、だけど肌は綺麗で、恋人はいないが、エロい妄想とかはしたりする、イケメン韓国人アイドルが嫌いで、YMOが好きで、後は海藻類とチョコレートが好き、椎茸を食べると吐く、喫煙者であるが下戸、人見知りであるがユーモアはあり、友達の前では結構ふざける、将来結婚はしたいけど子供なんて絶対に要らない、そんなことよりいつかベルギーに行きたい、本場のチョコレートを貪りたい、という夢がある、大卒のフリーター、と、まぁこれは適当に書いたのだが、こうした見知らぬ誰かのことを、想ってみる。架空というよりは想像、この世界のどこかに存在するという前提の、会ったことの無い人である。勿論向こうも私のことなど知らないし、だから今、彼女は私に想われていることなど知る由も無い。そうして私はふらりと街に出る。彼女の顔というか雰囲気を頼りに、近所を徘徊して、すれ違う人を見ながら彼女を探すのだ。こんな近くにいるわけ無いわな、と諦めかけたそのとき、一人の女性、はっとする後ろ姿、まさかと思い、少し後をつけて、でも、違った。彼女によく似ただけの人だった。などと独りでほくそ笑んで、また夜を歩く。

何もいりません。舞台に来てください。