春の夜

コートを羽織り、ニット帽を被りマフラーをしてマスクをつけていたら、笑われた。でも、おれは知っている。春の夜は寒いのだ。暖かな午後が過ぎれば、アスファルトも冷んやりとして、時にはびゅうと風が吹き、凍えるほどになる。それを、おれは知っている。ちゃんと知っているんだぜ。

自分は真冬に生まれたので、やはり死ぬときも冬が良い。完全なる偏見ではあるが、真夏生まれの人とは気が合わないような気がする。その証拠に、自分の友達、恋人、皆、冬や春に生まれている。とある人がとあるCDを送ってくれた。何度もリピートして、それを聴いた。風が吹いていた。とても素敵な音楽であった。

ガス欠のライター。シュッ、シュッとやっても、なかなか火が付かぬ。今の自分はそんな感じで、早い話が、終わってる。すっかり落ち着いてしまった自分には、燃える未来も何も無かった。ただの痩せこけた爺。このままじゃいかん、と言いながら、このままなのである。あの子に会いたい。五月山動物園に行きたい。春を生き延びようと思う。

何もいりません。舞台に来てください。