人魚の肉

福井県の小浜(おばま)にやって来た。海沿いの田舎町で何も無い。明日、Tづらが全国女流落語家大会に出場するというのでついて来たのだが、何もこんな寂れた街で開催しなくても良いだろうと思う。どうやら何年か前にやっていた、女落語家が主人公の朝ドラの舞台が小浜だったらしい。何でもかんでも、あやかれば良いというものでも無い。

この街の名物は鯖である。鯖街道という名の道には鮮魚店ひとつしか無く、後はシャッター街と空き地が続いていた。山を背に、大きな鳥居と神社がそびえている。こうした地元を守る神社は大抵不気味であるが、やはりここも同類、カラスの大群がいた。参拝するとちょうど顔のあたりを蜘蛛の巣にやられた。誰も来ていない証拠である。近くには海浜と港がある。潮風が心地良いが、昔小浜に住んでいた知人によると、北朝鮮の拉致事件があった浜であるらしい。

海沿いを歩いていると、マーメイド・テラスなる洒落た名の広場があり、人魚像が建っていた。説明書きによると、昔この街に人魚が辿り着いた際、その人魚の肉を食べた女が不老効果で800歳まで美しく生きたことから、八百比丘尼、と呼ばれたのでございます、いやはや人魚は栄養たっぷりでございます、とのことで、自分は思わず、こわ、と言った。足先こそ魚であるが身体の八割は人間で、何が人魚の肉だ、ほぼ人肉ではないか。人魚像を見ると、美しき女性の儚げな顔、え?あたしこれから喰われるんですか…?

拉致被害とカニバリズムの浜辺から少し歩くと、オバマ元大統領を模したふざけた像もあり、もう何が何だか分からない。日本人特有の、何となくええやろ精神、を随所に感じる阿呆な街であった。

何もいりません。舞台に来てください。