笑えないライヴ

今年最後の舞台は、「笑えないライヴ」だった。お客さんの誰かが笑うとその時点で終演する、という趣旨の実験的ライヴである。ルールとしては、イエローカードとオレンジカードとレッドカードがあり、お客さんが実質3回笑ってしまうと終了、舞台上の演者は笑って良い、というもの。ずっとやりたかった企画を実現出来て良かった。今の時期は観客がマスク着用のため、本当は素顔の状態でやりたかったのだが、仕方あるまい。

もしかしたら開演してすぐに終演するかもしれぬし、また、笑いが起きない限りライヴは永遠に続く。お客さんとしては、入場料は払っているし、ライヴはたっぷり楽しみたい、楽しみたいけど笑えない、笑うとライヴが終わってしまう、自分のせいでライヴを終わらせるわけにはいかないから、とにかく吹き出さぬように我慢、といったところか。特に、前列の方に座るお客さんはライヴの常連で、普段は大笑いして楽しんでくれる、本当に笑いが大好きな人たちであるので、苦行のような時間となる。演者としては、笑いを堪えるお客さんたちに対して、何とか笑かそうと奮闘する。ちなみに拍手も禁止なので、客席は完全なる無反応であった。

蓋を開けると、色々と興味深い内容で面白かった。何かボケても、何かツッコんでも、しぃーん、としていて、目の前には真顔のお客さんたちがこちらを見ているのだ。何故こんなことをしているのだろう、と思った。あまりに無意味な空間が、そこにはあった。

漫才は、やはり観客の反応あってのものである。無反応の中でやると、テンポも間も自然と崩れていく。それで崩れないのは、ただのロボットである。芸人というのは観客の笑い声が好物であると同時に、無反応に対しては敏感なのだ。目の前に真顔が並んでいるだけで、怖くなり、矢鱈と焦る。そんな中、堂々とやり切る芸人もいれば、粘る芸人、心が折れる芸人もいる。一方、客席はどうかというと、耐えている人、平気そうな人、まるで怒っているかのようなブスッと顔の人、目を瞑っている人(ズルい!)、など様々であった。さて、時間が経つにつれて、自分はもう何だか全てが面白くなってきた。そして漫才の最中に、感じたことの無い幸福感に包まれた。無反応を貫くお客も、笑わせようとふざける我々も、全員が阿呆で、年の瀬に何してんの、そう思った瞬間、妙なトリップに陥り、全身が痺れて尿をちびりそうになった。爆笑を取るよりも気持ちが良かったかもしれぬ。あれは、一体何だったのだろうか。変テコな夢のようであった。

さて、ライヴの結果はどうなったのか?それは書かないが、これを書いているということは、ライヴは無事に終演したのである。疲れた。また忘れた頃にやりたい。

何もいりません。舞台に来てください。