愛の泉

ここ何日間で、自分は死ぬほど承認欲求が満たされた。というのも、こないだのライヴにおいて自分は10人以上ものお客から、惚れてます、と告白を受けたのである(そういう企画である)。相手が誰かは分からぬものの、また、その半数はおそらく男性であるのだが、全てを真に受けた自分は気恥ずかしさと嬉しさで胸がドキドキして、面白いことをひとつも言えず、けれども乾燥していた心が愛の泉で溢れかえって潤った。興奮して、その夜は全く眠れなかった。まったく、単純明快な野郎である。

また、別イベントで自分は女装をした(髭や脛毛や陰毛を全て剃り落としてツンツルに、また、眉を細くして化粧を施しスカートを履き、カツラを被った)のだが、可愛い可愛いと周りにおだてられて、その言葉もしっかりと真に受けて、カメラでパシャリパシャリと撮られるうちに、やはり心に愛の泉が溢れた。いつの間にか自分は、満更でも無い様子でポーズを決めて、更には光加減や角度なども気になり出して、最終的には、とにかく可愛く撮って欲しい、もっと可愛くなりたい、とキュートな乙女心さえ生まれてしまった。31歳である。自分という人間が、如何に単純で低能な生物であるかが、よく分かった。そして自分の内なる根源は、クールでもナルシストでもシャイでもなく、ぶりっ子だったのである。

周りの漫才師が漫才の日本大会に燃える中、お前は一体何をしているのだ。と思われるかもしれぬが、これが等身大の自分であり、そのことを自分は否定しない。現に心が満たされた自分は、驚くべきことに長年悩まされていた首の慢性的な痛みがほとんど消えて無くなった。「惚れてます」「可愛い」、この二言葉により、精神が満たされた、と同時に肉体も良好になったのである。病は気から、というのは本当であった。

今はすでに髭も体毛も生え始めて、あぁ、やはり自分は乙女ではなく一人のおっさんに過ぎなかった。それは自覚している。いずれ首も痛みを取り戻すことだろう。けれどもこうした、ささやかな愛の泉を拠り所に、カサカサの日々を何とか生き続けることが出来る。勿論、舞台も、そうであるのだ。

それにしても、女性の苦労がよく分かった。毎朝、化粧をして髪を整えて、それが当たり前とされている社会へ出て行くのは、さぞ疲れることだろう。今後は全ての女性(ムカつく奴は除く)に対して敬意を持つことにした。

何もいりません。舞台に来てください。