夜歩く

楽しい夢を見て、自分は爆笑していた。そして、笑いながら目を覚ました。年に一度くらい、こうしたことが起きる。自らの笑い声で目が覚めるのだ。昨夜のライヴがそれ程楽しかったのか、現実逃避か、分からぬが、とにかく、愉快な寝心地であった。

「相方や、昔の同級生、芸人仲間、ライヴによく来るお客、知らん奴、たち合計10人くらいで夜の街を歩いている。遠い街に来たようで、皆でぞろぞろ歩きながら、今晩泊まる予定の宿を探している。「どこやねん宿」「多分この辺ちゃうん」「チェックインは18時やで」「今22時ですよ」などと言いながら、それぞれが、へらへらとしていた。

街は雨上がりで、アスファルトは濡れているが夜風気持ち良く、「何ていう宿やったっけ」「確か、なんちゃら館」「あ、ホテルちゃうんや」「いやいや、なんちゃら館ていう名前のホテルやろ」「なんちゃら館っていうホテル、皆検索してくれー」「了解でーす」「いや、なんちゃら館ていう名前じゃなくて、なんとか館、〇〇館や。なんちゃらの部分は空白」「あぁ、そういうことか…」「なんちゃら館、ありました」「あったんかい」「はい。なんちゃら館っていう…鹿児島にある居酒屋みたいです」「鹿児島かい!ほんで居酒屋かい!何探してんねんお前」「この近くに、日韓領事館あるみたいですけど、それ関係無いですよねー」「流石に関係無いやろー」

すると誰かが指をさして「あ、あれ!宿ちゃいます?」と言った。相方が真っ先に「どこどこどこ!おれ先行ってチェックインしてくるわ!」と走り出して、皆が笑った。

そのとき知らん奴が耳元で「嶋仲さん歌舞伎興味無いですか」と囁いてきた。2メートルくらいの大男だった。彼は誰なのだろうか。「興味はあるけど、そんなに、無いですね」「ぼく歌舞伎好きなんですよ。今度一緒に行きませんか。チケット二枚あるんで。ほら」歌舞伎は行きたいがこいつとはあまり行きたくないな、と思う。「もし行けそうならで良いので、これ、チケットです」「あぁ…。ありがとう。そうですね、時間が合えば…」とチケットを受け取ると、「えっと、7800円なんですけど」「え?金取んの」「いや、だって、ぼく、ダフ屋なんで」「ダフ屋やったんかい。じゃあ払うわ」

走って戻って来た相方、たこ焼きを食べながら「あれ、たこ焼き屋やんけ!宿ちゃうやんけ。阿呆かお前」「買うてるやん」「皆の分もあるから。たこ焼き20個。一人2個食え」「やったー」

早く宿に行かなければならないのに、皆どこか楽観的で楽しそうだった。たこ焼きを食べながら散策は続く。再び誰かの「あれ宿ちゃいます?」に反応した相方が「どこやどこや!ちょっと行ってくるわ!」と走り出す。「何やねんあいつー」「いち早くチェックインしたいんちゃいます?」「チェックイン坊主や」

誰かが魚市場へ行きたいと言った。この辺に多分あるはずですよ。皆がスマホで場所を探す。「魚市場、あっちちゃうかな」「こっちか」「獣肉資料館、てありますよ」「ヤバ、何それ。めっちゃ行きたいな」「おもしろそー」「この時間やってんの?」「ネットには獣肉資料館、24時間営業って一応書いてますけど」「ヤバすぎー」

向こうから相方が走ってくる。既に皆、笑っている。「お前宿ちゃうやんけ!楽器屋やんけ!」と相方が叫び、オカリナを吹いた。ぴゅー。「なんでオカリナ買うてんねん」「皆の分もあるから。オカリナ20個。一人2個な」「いらんわ」「そんなことより寺田さん、魚市場あっちでした」「魚市場どうでもええわ!宿探せやお前ら」「獣肉資料館はあっちです」「獣肉資料館!?」

ぴゅーぴゅーぴゅー。皆でオカリナを吹きながら、夜歩く。寂れた街並みは美しく、たとえこのまま宿が見つからず朝まで歩くことになっても、それはそれで楽しいだろう、と思った。「こんな夜が続けばええな」と自分が言うと、皆が一斉に、ぴゅーーーとオカリナを鳴らした。「それは、そうですねー的なこと?」

いつまで経っても宿は見つからない。「雨また降ってきた」「え、降ってないやろ」「あ、降ってないです」「なんやそれー」「獣肉資料館に冷凍イノシシいるみたいですよ」「冷凍イノシシ、見たい!」「なんで凍らしたんやろ」「冷凍マンモス的な」「イノシシ捕まえて、凍らそうってどういう神経や」「怒りすぎです」

一人の女の子が、最近彼氏が出来たと言って喜んだ。皆で祝いのオカリナを吹いた。芸人の奴が、オカリナを二個口に突っ込んで吹いていた。「すげーすげー」「前衛的な音やん」皆で笑っていたが、ふざけすぎたため、オカリナが取れなくなってしまって、また、大笑い。」

何もいりません。舞台に来てください。