暖尻・灰い

寒い。阿呆なのか、と思うほどに寒い。あなたの街はどうですか。凍えてはいませんか。

苛つくほどの寒風だ。それでも自分は自転車に乗って、真冬の街を爆走していた。坂に差し掛かれば、立ち漕ぎだってする。自分にとっての唯一の運動が、この自転車移動である。今日は手袋を忘れたせいで、ハンドルを持つ手は寒さに痺れて、凍ってしまった。ただでさえ末端冷え性の自分は、一度手が凍ると、そのまま全身の血液が冷えてしまい、脳が萎縮して嘔吐してしまう。かじかんだ手はなかなか溶けること無く、そんなときはいつも尻で暖を取る。ギャルの尻では無い。自らの尻だ。つまり立った状態で両手を後ろに回し、ズボンの背面ポケットに入れる感じで、ズボンとパンツの中に手を突っ込み、生尻を揉み揉みとするのである。幸い、先程までサドルに座っていた尻は温かく、その柔らかさとともに、しっかりと暖を取ることが出来る。誰かに見られても、正面ならばバレることは無い。後ろポッケ・ボーイだと思われるだけで、まさか尻で暖を取っているなどとは思わないだろう。冬の男は暖尻(だんじり)で決まりよ。

今日も、いつもの暖尻スタイルで交差点に立っていた。辛い(からい)と辛い(つらい)の漢字がややこしい、というのはよく言われる話であるが、確かにややこしい。これは意味合いとして双方ともに使う文章があり得るからで、辛い(からい)カレーを食べて辛い(つらい)、といった文章を書き辛い(づらい)のである。この、辛、という漢字はもうどちらかにあげて、もう一方には新しく漢字を充てがってやれば良いのではないか。辛、は、からい、のものにして、つらい、は別の漢字にしてあげよう。哀、はどうだろうか。悲しい、があるのだから、哀しい、はやめて、哀い(つらい)、にすれば良いのだ。しかしそれも安易だ、と思って、もう少し候補を考えてみると、没、絶、蛇、尖、散、灰、などが挙がった。没い、絶い、蛇い、は、ぼつい、ぜつい、へびい、なんて読む阿呆が増えそうな気がする。世の中から試験というものを排除するためにも、こうした読み違いを起こし得る漢字を作ってはならない。となると、尖い、散い、灰い、かな。こういうのは、ある程度感覚的に決めた方が良いのだ。待てよ。尖い、には、するどい、という読み方があったような気がする。尖い釘で怪我して尖い。これではカレーと同じではないか!じゃあ、散い、か。花が散ると散い。これもややこしい。ということで、灰い、にします。大切な人が灰になって灰い。これならば送り仮名もあるので、まだ許容範囲である。はいい、と読む阿呆はもう知らん。本当は、尖い、が好みではあるが、仕方あるまい。つらい、は、灰い、で。うむ。なかなかよろしい。と思っていたら、背後からクスクスと笑い声が聞こえるので見ると、女子中学生みたいな二人組が立っていて、自分は完全に暖尻姿を見られてしまった。咄嗟に両手をズボンから抜いたのだが、キモ、という声と嘲笑が聞こえてきて、とても灰かった。

何もいりません。舞台に来てください。