誰々に何々

店をしていると、これはもうある程度仕方の無いことなのだけれど、誰々にこれを渡しておいてください、と物を預かることがある。ただでさえ狭くて散らかった店であるし、また自分は物をすぐに失くすので、非常に困るのだが、「これ、ホッショさんにこないだのお礼でトートバックなんやけど、ホッショさん来はったら渡しといてくれへん?」などと言われてトートバックを渡される。そんなとき、自分はいつも渋々受け取り、出来るだけ触らぬよう気を付けて、分かりやすい場所に保管して、何とか相手に渡すよう心掛けている。面倒臭くて仕方無い。

さて、物ならばまだしも、誰々に何々と伝えておいてください、といった伝言預かりもしばしばある。そんなとき自分は、はあ、と一応相槌を打ちながらも、大抵は誰々に何も伝えない。業務的なことであれ、感謝やお礼であれ、愛のメッセージであれ、伝えたいことは自分で伝えたらいいやん、と思う。それが無理もしくは手間だから自分を介すのだろうけど、こちらとしては気乗りしないし、そんな言葉はすぐに忘れてしまう。

自分は言葉というものの力を信じている。物とは違って、たとえ同じ言葉でも自分が代わりに伝えるのと本人が伝えるのとではニュアンスも変わるだろうし、そこから誤解も生まれやすい。直接相手に伝えた方が伝わるのは当たり前のことで、それでも自分を介すということは、そのメッセージは、本当はそこまで伝えたいことでもないのではないか、と思う。また、直接伝えるのが恥ずかしい、照れ臭い、という可能性もあるが、これは要するに、本人に直接伝えるのは恥ずかしいけれど、お前に伝言を預けるのは恥ずかしくない、という意味で、それはそれで何かムカつくので、結局どのみち自分が誰々に何々を伝えることは、無い。大切なメッセージは、きちんと言葉にして本人に伝えるのが一番です。

何もいりません。舞台に来てください。