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夫への隠し事

「そんなにすぐ同棲もせず結婚して大丈夫?
旦那さんに隠してることとかないの?」
かつての婚活仲間、今は友人から投げかけられた質問にドキッとした。
思わず「な、な、ナイヨー」とどもりながら嘘を吐いてしまった。
夫に隠していることは……ある。

夫と引っ越してきてすぐの頃、
近所にある人気のパン屋さんで1斤のデニッシュブレッドを買ってきた。
噂通りに美味しいのかなー、なんて二人でドキドキしながら
朝ごはんにデニッシュブレッドを切り分けていただいた。

これがもう本当にとっても美味しかった。
バターの良い香りにふわっふわの食感。
デニッシュブレッド自体は色んなところ、
スーパーやコンビニのパン売り場でも売られているが、
このパン屋さんのデニッシュブレッドはそれらとは一線を画す。
(もちろんスーパーやコンビニのパンも私は美味しくて大好きだ。)
「美味しいね、美味しいね」と2人で絶賛しながら食べた。

朝ごはんを終えて、夫は職場の仲間と予定があると言って出かけて行った。
私は一人でお留守番だ。
平日にできない掃除をやっていたらあっと言う間にお昼の時間がきていた。

今からお昼ご飯を作るのは面倒だな……
そうだ、お昼ご飯にもあの美味しいデニッシュブレッドを食べちゃおう。
私は1切れ切り分けて食べた。美味しい。
もう1切れだけ食べよう。美味しい。
そんな風に、もう1切れ、もう1切れ……と食べている内に1斤あったはずのデニッシュブレッドはすべてなくなってしまった。

どうしよう……別にデニッシュブレッドを食べ終えてしまったこと自体は謝ればいいと思うのだけれど、
ダイエット宣言をしている手前1斤食べたと申告するのは大変恥ずかしい……

と、いうわけで。
私は近所のスーパーで外見が似ているデニッシュブレッドを買ってきた。
そして更にそのデニッシュブレッドをいくらか切り分けて食べ、
残りをパン屋さんの袋に詰め替えてパン棚に戻した。
デブによるデブのためのデブの偽装工作である。
本当はパン屋さんで同じものを買ってきたらよかったのだが、
パン屋さんは既に閉店しているであろう時間(売り切れ次第終了スタイルなので実際は分からない)だった。

そしてついに、翌朝の朝ごはんの時間がやってきた。
私は偽装工作したデニッシュブレッドを出す。
外見はひとまずクリアしたみたいだ。
夫はデニッシュブレッドを一口分ちぎり、口に入れる。
どうだ、バレるか……?緊張しながら夫のリアクションを待つ。
夫から出た言葉は
「うん、美味しいね。やっぱり焼き立てとは違うけどこれはこれで美味しい!」
だった。
ギリギリでバレなかったらしい。

……と、言うのが私の「夫への隠し事」であった。
夫を騙してしまったことにも後ろめたさを感じていたが、
友人に嘘を吐いたことも加わり、
ついに罪の重さに耐えられなくなった私は、
その日帰宅したあと夫に正直にすべて白状したのだった。
お詫びのデニッシュブレッドを添えて。

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