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ステージが見えぬまま、ただそこにいる事実だけで幸せだった3時間。

「ねぇ、ぜったい私のこと見て手振ってくれた!!」
「アンコールのとき、目合った〜〜!!死ぬ〜〜!!」

と、ファンたちはライブに行くと、あまりの多幸感に自分の都合のいいように解釈して盛り上がるのが常である。
私も肉眼ではっきりと見えるほど、推しを近くで拝めたことはない。でも、2階席の私たちがいるほうへ手を振ってくれたのなら、もうそれは私に手を振ってくれたのね、とちゃんと勘違いするのだ。

2019年10月。
4ヶ月後にはパンデミックにより世界全体がガラリと変わってしまうなんて、まったく思っていなかった頃。

私は毎週毎週、胃がキリキリと痛かった。
BTSのペンミ(ファンミーティング)のチケット当落結果に怯える日々を過ごしていたからだ。

他のアーティストのチケットが同じような抽選方法かはわからないが、BTSの場合は以下のようなシステムだった。落選したら次の手段で応募、それも落選したら次、のようにメンタルを削りながらもせっせと応募する日々。

ファンクラブ会員先行抽選(上限2枚まで)

モバイル会員抽選(上限1枚まで)

ファンクラブ以外の一般抽選(上限1枚まで)

ファンクラブ会員サイドステージ抽選(上限2枚まで)

モバイル会員サイドステージ抽選(上限1枚まで)

ファンクラブ会員以外のサイドステージ抽選(上限1枚まで)

ファンクラブ会員の体感席抽選(上限1枚まで)←ここで当選しました

モバイル会員の体感席抽選(上限1枚まで)

ファンクラブ会員以外の体感席抽選(上限1枚まで)

2019年12月のファンミーティング

これまでは、最初の先行抽選で当選していたので、こんなに落選メールが続くのは初めての経験だった。毎日心臓がバクバクしながら、ここぞとばかりに神に祈りを捧げ、メールを開き撃沈するという日々で本当にメンタルがやられた。

そしてチケットの抽選で、「ファンミーティング」なのにファンクラブに入っていない人が応募できるのなんで? という疑問を持った方もいるかもしれない。
それは、全ARMY(ファンの呼称)が抱いてる不満なので、ぜひBTSジャパンオフィシャルに問い合わせていただきたい。

まだ聞きなれない単語がありますよね。
「サイドステージ」とは、アリーナ席(1階)の用意はなく、スタンド席(2階・3階)のちょっと柱とかで見えにくいような席のこと。
しかし、会場によってはサイドステージの方が見やすかったなどの意見も多いので、当選すれば普通に嬉しい。

そして、やっと当選した「体感席」!!

体感席? 体感席です! 「体感」する「席」!勘の良い方ならもうお分かりですよね?

そう、ほとんど見えないんです!!体感するんです!!
えっ!ライブなのに、見えない!?


雑なステージの説明。体感席、こんな感じです。


「やだー!目があっちゃった〜!!」
「ファンサもらえた〜!ファンサファンサ!!」
ができないじゃん!

幸いにもライブを映してくれてるモニターはあったものの、メインステージの真横か少し裏にあたるところなので、バックステージに彼らが移動しない限り実物は見えない。

しかも、だ。体感席のチケットの応募上限枚数が1枚ということは、私たちは皆1人で参戦している。

1人だと、心置きなくギャーーー!とも叫べず、掛け声をするのもなんだか恥ずかしい。

そんなこともあろうかと、私はメンバー全員が満遍なく印刷されたシールをせっせと作り持参していた。
KPOPのライブでは、ネット上で仲良くなったファン同士が手紙やグッズを『ソンムル(プレゼント)』し合う文化がある。

私は、自分の座席から手の届く範囲すべてのARMYに「あの、シールのソンムルがあります。推しは誰ですか?」と聞き、シール配りおばさんとなった。
「私たち1人だけど、気にせず、楽しみましょう!」と言うとみんなとても喜んでくれた。

私は内心、「よし、これで心おきなく大声が出せるわ」とも思っていた。

隣の席にいた私よりもずいぶん若い可愛らしい子は、ユンギのファンらしい。ライブが始まるまで、推しの話で盛り上がり、仲良くなった。

そしてついに、私たちは体感する。

それまで流れていたBGMの音量がしだいに大きくなり、会場は一気に緊張と高揚に包まれる。そしてBGMが変わり、いよいよライブが始まる時、唯一の頼みであるモニターにはまだメンバーの姿は映されておらず、イントロの文字が映されていた。

すると、勝ち組(ステージが見える席)の方からギャーーー!!という歓声というか地鳴りが響いた。私たち(体感席ARMYたち)には何が起きてるのか分からず、

「なになに!?そこに彼らがいるの??いるのね!?」

と歓声が響く中、見えないステージの方に視線を向け、会いたいのに会えないといったもどかしさと悔しさを抱いていた。私たちは全員同じ空間にいるはずなのに、こちらだけが親を待つ雛鳥のようにキョロキョロと彼らの姿を探していた。

そしてやっとモニターに彼らが映り、一足遅くこちらも歓声を上げた。

私はモニターを見ながらも、なんとか生身の彼らを見ようと双眼鏡を駆使したり、隣の子と協力しながら姿を探した。(あの時の隣の可愛い子、ありがとう)

KPOP特有の掛け声も、なぜかアリーナ勢に負けじと大声になり必死に存在をアピールした。

ここにもいるよ!見えてないけど!
全然見えてないけど!あなたたちのことが大好きなファンがここに〜!!
と、とにかく必死でした。

バックステージに移動するときにようやく彼らの姿を肉眼で拝めた時は、
「やっと会えた。」
とストーカーみたいなことをボソッと呟き、全身から変な汗が吹き出していた。今考えたらだいぶ怖い。

そして、またメンバーはメインステージに移動したりと姿が見えなくなり体感スタイルに戻ったりを繰り返していた。

最後の最後、体感席に向かって手を振ってくれたメンバーを見て、声が届いていたんだと思わず合掌🙏

そして無事ライブを " 体感 " し終えた。

家族からは、

「体感席なんてほとんど見えないのによく行ったね。」
「モニター見てるだけなら家でDVD見てる方がマシじゃん。」

と言われましたが、それでもやっぱりライブが良いんです。

何度も撮り直した完璧な音源やパフォーマンスも素晴らしいけど、ライブの醍醐味は完璧な歌やダンスを見ることではない。同じ空間にいることに意味がある。と私は思っている。

2019年12月のこのライブが私の中で行った最後のライブとなっている。現在、メンバーは兵役に行ってしまっているけれど、全員帰ってきたらまた体感するだけでもいいから、彼らと同じ空間にいたい。

本日6/13は、BTSのデビュー日。今年で11年。再びライブで会える日を待ちます。


Webライターラボの企画で今月のテーマ「ライブ」について書いてみました。

Discord名:島田おかゆ
#Webライターラボ2406コラム企画

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