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江戸川橋の残念な定食屋(主婦目線コラム

レタリング会社(文字を扱う仕事)に勤めていた若かりし頃。お昼は近くの「地蔵通り商店街」という場所によくお弁当を買いに行っていた。時に友人と、たまに一人で、美味しいランチをいただける飲食店を探索していた。
ある日、いつも通る、駅から会社までの大通り沿いに、こざっぱりとした定食屋があることに気づいた。灯台元暗し。お? こんなところにあったっけ? 少し薄暗い雰囲気が気になりつつも、勇気を出してひとり入ってみた。
美味しかったら今度はアキとミホ(今でも仲の良い同期)を誘って来よう。
駅からも近い大通り沿いの店内は、お昼時だというのに意外に空いていて。この時少しだけイヤな予感がしていた。

「唐揚げ定食お願いします。」オーダーを取りにきた中年の小太りのおばちゃんに声をかけた。頭に被せた三角巾がなんとも雰囲気がある。
はーい。なんて言いながら厨房へ戻ったかと思いきや、少ししてすぐにおばちゃんは戻ってきた。
え? もしかして唐揚げ売り切れちゃってるとか? 不安げに見上げたわたしの目の前に、おばちゃんはニコニコしながらお皿を差し出した。
「お待たせしましたぁ。」
いや…全然待ってないYO。

江戸川橋の定食屋


差し出された唐揚げ定食を見た途端、先ほど感じたイヤな予感が見事に的中してしまったことを悟った。
冷たい…唐揚げ冷たい…。 そして…硬い…。

あぁ…。
自分を呪った。お店に入るときに薄暗さを感じていたまま席に座った自分を呪った。お昼時だというのに意外に空いていると感じたのであれば、そのまま引き返す勇気を持たなかった自分を呪った。
アキとミホに嬉しい知らせどころか、決して踏み入れてはいけない危険地帯が存在することを伝えなければならない事となってしまった…。

一体どうしてこんなことになったのだろう。冷たい唐揚げって出していいんだっけ? そもそも冷たい唐揚げとはもはや唐揚げと呼んではいけない。揚げたてではないにしても、せめてチンすらできなかった理由はなんなのか。正直スーパーのお惣菜売り場の唐揚げの方がはるかにホカホカと温かい。
ここまで冷たい唐揚げを出しておきながら終始ニコニコ顔のおばさんの顔を見ると、喉まで出かかったさまざまな疑問をぶつける訳にもいかず、心の涙を流しながらひとり冷たい唐揚げを頬張った。

どんな理由があるのかはかわからないけれども、飲食店として暖簾を出しているのであれば、「あーまた食べたい!」と思っていただけるように…との思いで提供しているものではないのだろうか…
ましてや江戸川橋といえば、印刷業界のメッカであって、企業も多い。お昼に美味しいアツアツの唐揚げ定食をいただいて、午後からまた頑張ろう! と来店するサラリーマンも多いはず…それなのにどうして…。

主婦として毎日食事を作っている今、あの店に対し、今さらながら疑問が残る。作る側として、家族にはできるだけできたてホカホカを食べてもらいたいと願うもの。
ご飯だと呼んでいるのにいつまでもレゴで遊んでいる次男を何度も呼び続けるしつこい理由はそこにある。アツアツの唐揚げが冷めないように。
SNSに上げるための写真撮影が面倒になってしまう理由もここにある。冷たい唐揚げになってしまわないように。

今こうして揚げ立ての唐揚げを一口食べ、しあわせな気持ちになると思い出す。まだ存在するのだろうか、江戸川橋の定食屋。ニコニコしたおばちゃんが今も冷たい唐揚げを出し続けているのだろうか…
そしてもしこの先機会があったら確認してみたい。今度はコロッケ定食を…(チャレンジャーかっ

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