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値上げ許容

 日銀の黒田東彦総裁は7日、物価高を巡り「家計の値上げ許容度も高まってきている」とした自らの発言について、「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではなかった。誤解を招く表現で申し訳ない」と陳謝した。首相官邸で記者団に答えた。消費者らは「許容していない」「世間を知らない」などと黒田氏の発言を厳しく批判。閣僚や野党からも疑問や批判の声が上がっており、経済運営に対する政府・日銀の認識が問われる事態となっている。(山口哲人、井上峻輔)
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 黒田氏は6日の東京都内での講演で、家計が値上げを受け入れやすくなっていると指摘した上で「1つの仮説としては、新型コロナウイルス禍における行動制限下で蓄積した『強制貯蓄』が、家計の値上げ許容度の改善につながっている可能性がある」と語った。 

黒田氏は7日の参院財政金融委員会に出席し、発言について「賃金上昇の重要性を強調する文脈の中で言及した」と釈明。「値上げ許容度という言い方が適切だったかについて、批判は甘受したい」と述べた。
 萩生田光一経済産業相は7日の記者会見で、黒田氏が国会審議で買い物は「家内がやっている」と発言したことに触れ、「(黒田氏自身の)実体感はない話だったのかなと思う」と疑問を投げかけた。松野博一官房長官は、黒田氏の発言に対する認識を問われたが、直接は答えず、「ガソリンや小麦などの国内価格の上昇を抑制し、生活困窮者や低所得者の支援を後押しする」と述べるにとどめた。
 立憲民主党の西村智奈美幹事長は「実態を知らず国民の声とは全く懸け離れている」と指摘。同党の馬淵澄夫国対委員長は「日銀総裁は3000万円の年収だ。物価高で苦しむ人々の気持ちが分かっておらず、憤りを感じる」と批判した。
 共産党の小池晃書記局長は「国民感情を逆なでする許し難い発言だ。物価高騰をつくり出している主要因は日銀の異次元の金融緩和だ。自らつくり出して『受け入れられる』と言うのは厚顔無恥と言うほかない」と非難した。
 7日の立憲民主党の会合に出席した日銀の川本卓司政策企画課長は「神経を逆なでする、生活者目線に立っていない言葉を使ってしまったことに関してはおわびしたい」と陳謝した。
◆発言の背景にあったのは…
 日銀の黒田東彦総裁が「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と6日の講演で発言したのは、東京大大学院の渡辺努教授(マクロ経済学)らが日本、英国、米国、カナダ、ドイツを対象に実施したアンケート「5か国の家計を対象としたインフレ予想調査」に基づいている。
 アンケートに「値上げ許容度」という言葉はないが、関連するのが「あなたがいつも行っているスーパーでいつも買っている商品の値段が10%上がったとします。あなたはどうしますか」との質問だ。
 2021年と22年に同じ質問を行い、回答の傾向を比較。それによると「何も変わらない。それまでと同じように、その店でその商品を同じ量、買い続ける」という回答者の割合が、日本では21年には43%だったが、22年は56%に高まった。
 比較対象の欧米各国は21年は60%以上、22年は50~60%台だった。このため調査では、日本も欧米と同じく値上げを受け入れる回答が過半になったとして「日本の家計の値上げ耐性が高まった」と分析した。   

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