ルパン三世・原作のススメ
色気のある悪党が好きです。
ただ目つき顔つき性格口ぶりが悪いだけとか、ただただ粗暴なだけとか、頭の悪さを暴力だけでカバーしようとするとか、そういう下品な馬鹿はお呼びでない。
いつもどこか冷静で、笑っているときでもどこか酷薄で、蜜のように甘く、毒針のように鋭く、己の才覚一つで欲しいものをすべて手に入れていく、底の知れない悪党が好きなんです。
あくまでも、作品のキャラクターとしてということですよ。
現実の犯罪者はダメ。
現実でそんな人間に目をつけられたら、人生棒に振ります。
そういうわけで私は、アニメのルパン三世は、絵柄と音楽は2ndシリーズが好きだけれど、物語自体は1stシリーズが好きで、カリオストロの城を蛇蝎の如く憎むという、面倒なこじらせ方をしております。それ以降のシリーズについては、もう全てどうでもいいです。
カリオストロに関しては、悪口を言い始めると止まらなくなるので言いませんけどね。あれは、「ルパン」でさえなかったら、大好きな映画になっていたような気がするだけに、余計に憎しみが涌くという…。
お好きな方は、それでよろしいかと思いますけど。
ルパン三世は、原作の漫画が存在します。
モンキーパンチの漫画は、絵柄も、コマ割りも、ストーリーの運び方も、今のコミック作品とは随分趣が違いますから、人を選ぶ作品であることは間違いない。ルパン三世シリーズは、原作に大幅に変更を加えての映像化が、うまくいった例の最たるものでしょう。
原作の中では、ルパンは、何でも盗むし、必要に駆られたら誰でも殺します。善人を害する描写はほとんど見られませんが、悪党相手なら容赦はしません。色気のある美人を好み、女から手ひどく裏切られても、それ以上にやり返したりする。
誰にも捕まらない。誰もその素顔を知らない。
ルパンの普段のあの顔は変装であることが原作で描かれています。
では、どうしてこれらの描写が活きるのか。
それは、ひとつは、原作にしかない、そして、原作でもたまにしか描かれない、設定があるからです。
ルパンは、何でも盗みます。
持ち主がどんなに守ろうとしても、目をつけた品は必ず盗んでいきます。
けれど、ルパンが、その頭脳と技術を総動員して挑んでも、どうしても盗めないものが、この世にたった一つだけあるのです。
「無垢な少女の心」とか、そんな、くそたわけた話ではありませんよ。
ルパンが、どうしても盗むことができないもの。
それは、『盗術』という、書物です。
ルパンの祖父、アルセーヌルパンが記したとされる書物。
遺産として代々伝わるはずだった、盗みの全てが書かれた秘伝の書です。
これを、どうやら二代目が、何かの事情で手放してしまった。
三代目であるルパンは、この書物を、探し出して取り戻したいのです。
正当な取引をする。買い戻す。そんな手段はとりません。
欲しいものは、騙して盗んで手に入れる。それが泥棒のプライドです。
ましてやその品は、ルパンの家に伝わる盗みの真髄が形になったもの。
ならば盗み以外の手段で手に入れるのは恥です。
ルパンは、この『盗術』を取り戻すために、泥棒を続けていると言っても過言ではないのです。
何よりも手に入れたいたった一つのものだけが、手に入る寸前で、すり抜けてまたどこかに消えてしまい、どうしても手に入らない。
きっと、だから、盗み続ける。
それが、原作のルパン三世です。
アニメでは、私の記憶上は一度も出てこない設定です。
出てこなくてよかったとも思っています。
盗めないものが「たった一つしかない」からこそ、活きる設定なのです。
何度出てきても何も盗まない泥棒がそんなことを言ったところで、「あんたが盗めないのは今に始まったことじゃないじゃん。何なら盗めるの?」としかならないでしょう。そんなの格好よくない。
この設定を活かしたければ、普段ガンガン盗んでないといけないんです。
随分昔のノワール作品ですし、昨今主流の小綺麗な絵柄ではありませんから、いずれは時の流れと、変化していく価値観に押し流され、消えて忘れ去られるでしょう。「不朽の名作」というキャッチコピーはつけることができないタイプの作品です。
それでも、クセのある絵柄も、多少の辻褄を犠牲にしてでも重視してあるスピード感も、いい味になっていて、私は嫌いではないです。
興味を持たれた成人の方は、新ルパン三世の愛蔵版辺りからが比較的読みやすくてよろしいんじゃないでしょうか。子供は読んじゃダメですよ。
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