ネタバレあり「君たちはどう生きるか」備忘録

7/23鑑賞。
備忘録として見ていて思ったことをズラズラとりとめなく書きます。

吉野源三郎「君たちはどう生きるか」未読。ジブリ作品も振り返れば最後に見たのは「崖の上のポニョ」。つまり「風立ちぬ」未見。よってはなはだしく見当違いのことをただ妄想しているだけかもしれないのですが、鑑賞後どうも頭から離れないので感想を書き殴っておくことにしました。なにしろパンフ等記憶を確かめる手段がないので見逃し・勘違いあると思いますがご容赦。

鑑賞後の感想は宮﨑駿監督の内面が強く投影された作品だろうということ。監督の頭の内側や、見た夢や、イメージソースを直にのぞいている感覚。私自身はそういう作品は好きですがその点で娯楽性より芸術性がまさった映画かなと思います。
村上隆氏がインスタで指摘していたのですが本作では監督の表記が「宮崎駿」ではなく「宮﨑駿」(崎→﨑)。これまでとはテイストが異なる作品である、監督本人の物語であることを表しているのでしょうか。

ところで物語冒頭、主人公眞人が訪れる輝きを失った屋敷、廃墟のような塔。この感じは「千と千尋の神隠し」の出だしに似ています。そこで思い出す公開当時のインタビュー。宮崎監督の構想どおりに作ると上映時間が6時間、7時間になってしまうので鈴木プロデューサーが顔ナシにフォーカスして物語をまとめる提案をし、時間を短く納めることが出来たというエピソードです。もしかして「君たちはどう生きるか」では「千と千尋の神隠し」でやり切れなかったことを詰め込んだのでしょうか。

多くのシーンで日本における差別(おもに職業差別)の悲しさ、しかしそこに生きる者のたくましさ美しさが描かれていました。これはほかの過去の作品にも言えることですが、昔の自分は気づかず見過ごすことが多かったと思います。また人が持つ罪の意識、罪悪感をおりおり感じさせる内容でした。



そしてこの作品は「君たちはどう生きるか」を観客に問うているのではなく、この質問を得た監督が「私はこう生きた」と言っているように思えました。

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人物・場所・アイテムなどの感想・考察

眞人:
親類が飛行機製造会社を持っていたという宮﨑駿監督ご自身を投影した主人公であろう(「風立ちぬ」を見ておらずその辺詳しくないため浅くてすみません)

眞人の父:
戦闘機工場を経営しており軍需で羽振りが良い。頼りがいのある好漢だが無自覚に札束でビンタを張るようなところがある。戦争成金を表しているか。コートと帽子を着用した姿は銭形警部。自宅に運ばせた飛行機のキャノピーはナウシカのガンシップ=王蟲の目。

母の実家:
和風建築の玄関には立派な彫刻。大広間に絢爛たる障壁画(狩野永徳の唐獅子の写し)の名残り。年老いた女中さんたち。派手な設えはここが住居ではなく、廃業した遊郭であることを表しているのではないか? 「千と千尋の神隠し」の湯屋=じつは遊郭では説が思い出される。お婆さんたちは遣り手婆だったかもしれないし女郎だったかもしれない。髪型が湯婆婆に似ている。おしゃれな簪をさして煙草を喫むキリコお婆さんは玄人の雰囲気を纏っている。売られてきて世間に頼る者のない人たちが残っているのかもしれない。お婆さんたちに「お嬢さま」と呼ばれるナツコは遊郭経営者の一族。

ナツコ・ヒサコ姉妹:
母ヒサコの実家にも関わらず眞人は初めて訪れた様子。ナツコとは1歳の頃に一度会ったと言われても記憶がない。眞人は10才くらいに見えるがナツコはこれから眞人の弟か妹を出産予定。ということはヒサコ・ナツコは年齢が離れている姉妹の可能性があり、ヒサコは少なくとも子供が生まれてからはほとんど実家には帰らず、二人は疎遠だったのではないか。眞人の両親は戦争成金と遊郭経営一族のカップルなのかも、世間から陰口を叩かれやすいなりわいのファミリーを描いているのかもと想像。
ナツコは砂糖すら貴重品である世の中で仕事もなく、どうやって女中さんら従業員を養っているのか?お金持ちとの結婚で解決したのかもしれない。

大叔父:
空から落ちてきた不思議な塔に魅入られ戻ってこなくなった大叔父さん。一度だけ出てくるセピア色の写真らしき肖像では西洋人の風貌に見えた。幕末〜明治維新の頃の人らしい。彼は塔を知識で満たした(この辺ちょっとうろ覚え)が、それらは外国の文献や道具だったのではないか。

塔:
眞人の一族は孤独に囚われた時にここに向かってしまうのか?
眞人は母を空襲で救えなかったという罪の意識、馴染めぬ(馴染みたくない)新しい母、学校、に心を閉ざしているときだった。
ナツコは心を開かない甥っ子との生活とつわりで心身を消耗したとき。もしかしたら夫(眞人の父)のことも信じきれないかもしれない。自分は死んだ姉と顔がそっくりというだけで再婚相手に選ばれたのだ…と考えても不思議じゃない状況。
では少女時代のヒサコは?塔付近で神隠しにあったときの年齢はいまの眞人と同じくらい。それはもしかしてナツコが生まれた頃ではないか。ナツコとは異母あるいは異父姉妹であるとか、何か子供には辛い家族状況があったのではないか。物語上ヒサコ・ナツコの母には一瞬だけ言及があるが、父親は一度も出てこなかったと思う。
塔の中のさらに奥は「死んでいる者のほうが多い世界」で、かつ生まれる前の者(フワフワ...でしたっけ?呼称思い出せない)もいる世界、すなわちあの世でしょうか。

塔のあるじ(おやかた様?でしたっけ?):
塔に入って帰ってこなくなった大叔父さんか。キリスト教絵画の創造主や聖人のような姿をしている。塔の世界のバランスを左右する積み木(石?)を手元に持っている。知識の吸収に没頭しているうちにそうなったのか。

アオサギ:
不気味な言動で塔に誘うアオサギ。劇中でよく分からなかったキャラクターの一人だがここが核心という気も...。まだしっかりしていたナツコが破魔矢で追い払っていたので魔物の一種か。アオサギは嘘つき、サギは詐欺。腹に一物を持っている。その腹にいるのはデフォルメされた風刺画のような風貌のおじさんである。一体誰なのか...と思いつつ西洋風の風貌の登場人物といえばほかに大叔父さん(の肖像写真)しかいない。すると大叔父が塔の主とアオサギに分裂したのではないか。「千と千尋の神隠し」では湯婆婆に双子の姉銭婆婆がいたように。塔の主は聖、アオサギは俗。聖は知的だが傲慢であり、俗のほうが親しみやすく友達になれるということか。

ペリカン:
食料を求めては生命の誕生を阻む者として業火に焼かれる。ほかの場所に行きたいがどうしても行かれない悲しい運命を嘆く。フワフワ?を食べようとするのは堕胎のことであろうか。職業、移動の自由がない身分制の社会で必要とされている仕事をしてきたのに非難される、終わらない心の痛み。

インコたち:
よく分からなかったキャラクターその2。ダイオウインコの服装がカリオストロ伯爵ふう。よく見るとインコたちの鼻がちょっとロボット兵の顔ふう。塔の扉の向こうに飛び出すと普通のかわいらしいインコのサイズになる。「もののけ姫」の「動物たちは小さく愚かになってしまった」というセリフを思い出す。

キリコ:
たくましく美しいヤングキリコ。殺生(漁)をする彼女は生き生きしており、殺生に手を染めず魚を買うだけの者たちは亡霊のよう。塔の世界のキリコは精子のようなフワフワ?のケアをする必要があるしここを動けないといって眞人を見送る。この世のキリコは遊郭で生活し働く遊女だったということか。キリコが眞人一族と塔の中に入るのは実は二度目で、ヤングキリコは少女時代のヒサコの神隠しについてきた際の姿ではないか。

善意の石、悪意の石:
よく分からなかったがバルス。世界をコントロールしようとするのは無理ということか。旧世界は必ず崩壊する必要があるということか。明るい庭園はラピュタ、静かな塔のあるじの部屋は銭婆婆の家。

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参照されている(と思しき)画家・作品

狩野永徳
ルネ・マグリット
ジョルジオ・デ・キリコ
エッシャー
オノレ・ドーミエ

小説 不思議の国のアリス

映画 インセプション

※村上隆氏の指摘:ベックマン「死の島」←たしかに!気づかなかった!

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