それぞれの責任

AAの中でミーティングを重視する人たちを meeting maker ミーティング・メイカー と呼び、12ステップを重視する人たちを step taker ステップ・テイカー と呼ぶのだそうです。ミーティング派と12ステップ派とでも訳しましょうか。二人は典型的な step taker でした。

心の家路, ジョーとチャーリーについて (1) Big Book Comes Alive!

さて、また雑記。
冒頭で引用したのは心の家路さんの記事です。AAのなかには大きく分けて二つの流れがあることを説明している文章です。

AAには「支え」の機能と「変化」の機能をそれぞれ担う道具があります。前者は「AAミーティング」、後者は「12ステップ」です。
これら二つの道具は、あざなわれた縄のように不即不離の関係でAAという一体性を構築しています。
そして前者をミーティング・メイカーが、後者をステップ・テイカーが担い合っています。

いうなればミーティング・メイカーは人間の絆や感情を大切にする左派として、ステップ・テイカーは12ステップを通じた超越(神)との繋がりを重視する右派として、共にAAを支えてきました。(カーツ 2020 : 補遺A)

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ここ数年はAAも世界的なコロナ禍の影響下にありました。
緊急事態宣言を受けて、長年定期的に続けてきたミーティングを閉じるAAグループも多く、その悔しさの声も聞こえてきました。
同時に、Zoom等を活用して新しくオンラインでAAミーティングを開く流れも活発化し、2023年1月には日本のAAで初めてオンライン・インターグループ・オフィス(JOI)が発足しました。

そんな流れの中、私もずっとAAにいたのですが、23年に緊急事態宣言が終わりオフラインでミーティングを再開したAAメンバーからこんな声を聞くことが増えました。
「コロナ禍があけて、オフラインでミーティングを再開してみるとミーティングのノウハウや雰囲気が消えてしまっていた。病院などとの関係も以前とは遠くなり、ビギナーの流入も減って/止まってしまっている。AAミーティングは、かつてのAAミーティングではなくなってしまった」。

24年になり状況はさらに悪化している、という話もよく聞くようになりました。


私が『宗教的体験の諸相』スタディ・ミーティングをコロナ禍の間からずっと開催してきたのは、AAのステップ・テイカーとしての責任を果たすためでした。
コロナ禍が終わり、オフラインでミーティングが再開されたとき、みんなが原理を忘れてしまっていた・アクセスできなくなっていたとなれば、AAの現場(各地域のグループ)が困ってしまうからです。
なので、ミーティング・メイカーが原理にいつでもアクセスし、それを学び、自分たちのミーティングでそれを活用できる環境を作ることが私のAAでの仕事だと感じ、実践をしてきました。その道具としてnoteやZoomを使ってきた。

しかし現在、気付いたことがあります。
緊急事態宣言が終わり、AAが「通常復帰」して、現場が「AAミーティング」そのものを見失った状況になっても、ミーティングのノウハウや本質をふたたび示すミーティング・メイカーがいないのです。
いや、私が知らないだけかもしれません。しかし私にはそういった動きは見えません。

AAは原理だけで成り立ってはいません。車の両輪としての左派のミーティング・メイカーがいてこそ12ステップも広く活用してもらえます。
しかし、コロナ禍のオンライン活動で「AAミーティングは歴史的にこのようなものであり、それを私たちはオフライン/ オンラインで実践し失敗と成功の経験を蓄積してきた。それを広く公開して、今ふたたびAAミーティングの回帰点を示そう」というミーティング・メイカーの動きがない。

そのような分析も、動きも、私には見当たりません。

一体、オンラインで毎週ミーティングを重ねてきたグループは、なにをしていたのだ?毎日のようにミーティングに参加してきたAAメンバーはなにをしてきたのか?
サイトやテキストなどの、形あるものを残せていないのだろうか?まさか口だけなのか。

そんな思いを感じながら、私も「しまった」と思っています。
ステップ・テイカーとしてホームページやテキスト作成、またスタディを積み重ねてきましたが、ミーティング・メイカーのそのような動きがなかったことは見落としていたからです。そこまで考えが回らなかった。

いや、だってミーティング・メイカーがやってくれると当然思うからさ。Not-Gotとビッグブックと自分たちの実践を突き合わせて、それをまとめるくらいはさ。


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なので、今はけっこう困っている時期です。
はて、ステップ・テイカーの責任を果たすために原理を言語化しつづけたが、それを利用してもらうべき現場の様子が非常に怪しい。
ミーティング・メイカーからミーティングの本質の言語化という責任が果たされない今、私はなにをしたらいいのだろうか。うーん。

とりあえずは、今年いっぱいうんうん悩んでいると思います。しかしまぁ、引き続きAAのゼネラル・サービスとは距離を置きながら。
私はミーティング・メイカーの器ではないし、ステップ・テイカーとミーティング・メイカーの二つを同時にはできないから。
もどかしくもあるのですが、それが人間の限界なのでしょう。

しかし、困った……。
なんだかむなしくて、ため息が出てきています。一回、どでかく全てが崩壊したほうがいいのかもしれませんねぇ。土は土に、塵は塵に。


参考文献

カーツ, アーネスト(2020)『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』葛西賢太・岡崎直人・菅仁美 訳,  明石書店