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「お勉強じゃダメ」の誤解について

AAならずとも、12ステップを使う共同体に参加しているなら一度は「お勉強じゃダメ」といった言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。要は、テキストを学んだりするのではなく、ミーティングを回るなどの「行動」をすべきだという考え方です。
この考え方の特徴は「学び(お勉強)」と「行動(実践)」をそれぞれ別のものとして分けて考えて、それぞれを対立させていることです。

ですが、その考え方はAAの発想でも、ビッグブックの発想でもありません。今回はそれを簡単に説明しようと思います。



ビッグブックとプラグマティズム

ビッグブックはプラグマティズムという考え方をその背景に持っています。ここについては、E.カーツ Not-God や心の家路さんの記事を参考にしてください。また、その内容の学びを深めたければ、『諸相』スタディにご参加ください。


さて、上記記事にもあるように、このプラグマティズムという思想は、真理や価値の判断基準を実生活における「有用性(役にたつこと)」と切り離さないことに大きな特徴があります。つまり、私たちにとって役にたつものなら、それが「真理である/価値がある」と認めるのです。ここは大澤真幸さんの記事がとても簡潔に説明してくれています。

少しずつイメージできてきたでしょうか。つまり、プラグマティズムでは、何らかの考え方の価値は、その考え方が実際に役にたつか(有用かどうか)どうかで決まるのです。

価値 = 有用性(役にたつこと)

これを「学び(お勉強)」と「行動(実践)」に当てはめればどうなるでしょうか? プラグマティズムの上では、学びの価値は、その学びが実際に役に立ったかどうかで決まります。そして、考え方や知識が役に立つかどうかは、実際の行動(実践)の中でしかわかりません。

なので、プラグマティズムにおいては、学びを行動から切り離すことはできないのです。もし、学びと行動(実践)を分けてしまうと、その学びは「価値(有用性)」を得ることができなくなってしまうでしょう。

学ぶからには、その学びを実際に生活の中で使ってみて、それが本当に役にたつか検証する。
そして、古いものを捨て、新しく役に立つものを得るために学ぶ。新たに役にたつものがあれば、自分や他の人のために活かそうとする。

ビッグブックが前提としているプラグマティズムという考え方は、上記のようにシンプルなものです。有用なものに価値をみいだし、役に立たないものを捨てていくプラグマティズムの姿勢を、ビッグブックは以下のように表現していましたね。ここは、12ステップにおける「学び」とはなにか、の説明でもあります。

「いまの時代の特徴とは、古い考えを捨てて新しいものを取り入れることに抵抗がなく、要らなくなった理論や道具の代わりに、使いやすい有効に働くものを無理なく取り入れることができることではないだろうか。」

AA(2003) : 76

新しいものを学ばなければ、古い考え方を捨てることはできませんよね。BBに出てくる港湾労働者も、新聞などで飛行機や宇宙開発の実際を学んだから、これまでの固定観念を捨てられたのでしょう。

古くなって役に立たなくなったものを捨てたければ、新しいものを学ばなければなりませんし、学んだものは実際に使わなければなりません。12ステップのステップワークでもステップ1、2で新たな情報を学んで、これまでの固定観念を捨て始めたならば、次はすぐさま行動のステップへ移っていきます。

学びと実践は分けられない

なので、「お勉強じゃダメ」と「学び(お勉強)」と「行動(実践)」を分けて考えている時点で二元論といいます)、ビッグブックのものの考え方からは離れることになります。ビッグブックはこう強調しています。

霊的な生き方は理論ではない。実際に生きなくてはならないのだ。

AA(2003) : 119

ここの箇所でBBが言いたいことはシンプルです。つまり、これまでのステップで学んできた霊的な道具を、自分が家庭の中で使うことにより、家族のためにも役立たせなければならない、ということです。プラグマティズムを考え方の基礎とするなら、実際の生活で役に立たなければ、その道具には価値がないからですね。
この記述からもわかるように、BBは学びと行動を分けて考えていません。それらはひとつであるべきだと主張しています。

  • 【補足】
    上記のBBの引用箇所を示して「理論はダメで行動が重要」と学びと行動の対立を強調する意見もありますが、それは明らかな誤読です。BBのこの文脈に、そのような対立関係を前提して書いている箇所はありません。

ようはAAのプラグマティズムは「学んだら使って活かそう。使ったらさらに学んで、次を目指そう」という、極めて一般的・日常的な話なのですが(自動車学校や専門学校なんかもそうですよね)、なぜか日本のAAではそこがねじれてしまっているようで残念に感じています。

当然、学んでるだけでは有用性という価値は生まれないのです。同時に、行動してるだけじゃ有用性の判断も成長もできません。 12ステップにおいては、学びと行動は対立するものではなく、どちらも必要不可欠なのです。そんなシンプルだけど、忘れられがちな話でした。


まとめ

⚫︎学び(お勉強)と行動(実践)を2つに分けて、それを対立させる考え方は、AAのものでもビッグブックのものでもない。

⚫︎ 12ステップにおいて、学びと行動は対立しない。それは、2つでひとつのものであり、どちらも必要不可欠である。


参考文献

AA (2003) 『アルコホーリクス・アノニマス』 AA日本出版局訳, JSO