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スタディ通信 22年11月号

11月で『諸相』スタディは2周年を迎えました。これまで24回、出張も含めると26回のセッションをやってきたことになります。
2年つづけられて、本当にありがたいことです。

参加してくださっているみなさま、いつもありがとうございます。



スタディのふりかえり

11月はジェイムズが描く宗教の型(タイプ)の議論を踏まえて、AAのスピリチュアルな信仰の世界観について話しました。

どのような集団も、技法も、宗教も、思想などなどなども、大まかに共通する世界観を共有することによって成り立つものです。
AAは宗教ではありませんし、政治団体や社会運動団体ではありません。しかし、AAの拠って立つ霊的な領域にも、AAなりの世界観を持っています。

そんなAAの世界観を、昨夜はジェイムズの「一度生まれと二度生まれ」という二つの異なる気質の概念を使って、説明しました。
その気質を、ジェイムズはこのようにまとめています。少し長くなりますが、引用します。

前回の講義は、私たちの生きているこの世界にしみわたっている一要素としての悪というものを取り扱ったもので、実に苦しい講義であった。その終わりのところで、わたしたちは二つの人生観の対照を完全に看取するにいたった。一つは私たちが「健康な心」の人生観と呼ぶものであって、それは幸福になるためにただ一回の生誕だけで足りる人間に特有なものであり、もう一つは「病める魂」の人生観であって、幸福になるためには二回の生誕を必要とする人間に特有なものである。その結果として、私たちの経験の世界について二つの違った考え方が生じてくる。一度生まれの人の宗教では、世界は一種の直線的なもの、あるいは一階建てのものであって、その勘定は一つの単位でおこなわれ、その部分部分はきっかりそれらが自然にもっているように見えるだけの価値をもっており、単に代数的にプラスとマイナスとを合計するだけで価値の総和が出てくるといったようなものである。幸福と宗教的平安とは、その差引勘定のプラスの側で生活するところにある。これに反して、二度生まれの者の宗教にあっては、世界は二階建ての神秘である。平安は、ただプラスのものを加え、マイナスのものを生活から消去するだけでは達せられない。自然的な善は、ただ量的に不十分でうつろいやすいというばかりではなく、その存在自体のなかに、ある偽善がひそんでいるのである。自然的な善はすべて、たとい死の前にあらわれるいろいろな敵によって抹殺されることがなくても、結局は死によって抹殺されてしまうのであるから、最後の差引で残高ができることなどないし、私たちの永久的な崇拝をうけるべきものでは決してありえない。むしろ、それは私たちを私たちの真の善から遠ざけるもので、そのような自然的な善を放棄し、それに絶望することこそ、私たちが真理の方向へ向かって踏み出すべき第一歩なのである。要するに、自然的な生命と霊的な生命と二つの生命があるのであって、私たちはその一つに与かりうるためには、まず他方を失わなければならない。

ジェイムズ(1969) : 251-252

ようは、一度生まれ型の宗教と二度生まれ型の宗教の、それぞれの世界観は明確に違うということです。

そしてAAは、ビッグブックやビル.Wの書いたものを読むと、明確に二度生まれ型の世界観・信仰観をその基礎にもっていることがわかります(同時に、ニューソート等の一度生まれ型の世界観の影響もあります)。

それは例えば、ビッグブックが「自己(self)」というものをどのように捉えているかからもわかるでしょう。


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さてさて、僕はAAに来て3年ですが、なんか骨身にしみるように理解したことがあります。それは「ビッグブックを読むことは大切なことだけれど、ビッグブックだけを読んでると誤読する」ということです。

ビッグブックが前提としている考え方や文化、概念や世界観や価値観などはビッグブック以外を読むことで立体的に理解することができます。
それらを理解するためには、まずビル.Wの書いたものを読むことも役立つでしょうし、『AA成年に達する』もいいでしょう。また、カーツのNot-Godやジェイムズの『宗教的経験の諸相』も非常に有用です。

とかく、ビッグブックに書いてあることを理解し、実践しようとするならば、ビッグブック以外も学ぶ必要がどうしても出てくるということです。

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そんなこんなで、AAの原理を理解する上で、どうしても外せないテキストの一つが『諸相』なので、そのスタディをやっています。
そして、そんな地味で目立たない営みを、これからも続けていきたいと願っています。興味があれば、遊びに来てください。

参考文献

ジェイムズ, ウィリアム (1969) 『宗教的経験の諸相 (上)』桝田啓三郎訳, 岩波文庫


リンク

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『諸相』スタディのシラバスやスケジュールなどは、下記公式サイトから。