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日本での首脳会談はリスク大か

安倍晋三・元首相が約10メートルの至近距離の背後から銃撃され亡くなってから1週間が過ぎた。つい先日まで日本で最長の現役首相として力をふるい、今後も生存していれば、政局の実質的な主導権を握っていたと思われていた。しかし、少なくとも表面的には政界や日本社会で安倍氏の死による大きな動揺はなく淡々と日常が過ぎている。政局に動乱の芽が見えず安定的に推移していることは僥倖といえるが、一方で現在の日本の無気力さと緊張感の無さ、無力さを現わしているようにもみえる。

かつての吉田茂、鳩山一郎、田中角栄、福田赳夫といった大物政治家が暗殺される事態が起きていたら、政界や社会はその後継を巡って大混乱が起きていただろう。しかし、戦後最長の一極支配を続けていた安倍元首相の暗殺事件は、その背景の詳細はまだはっきりとわからないものの、政治的、社会的影響は拍子抜けするほど大きくはない。右翼、左翼も目立った動きはしていないし、国際社会も一斉に安倍氏の死を悼んだが、北朝鮮ですら日本に緊張を与えるような動きは見せなかった。それだけ日本は世界の大国として敬意を持たれ、不幸につけ込むような、ちょっかいを出されない国になったということなのだろうか。

安倍家とわが家は、ちょっとした縁がある。晋三氏の父・安倍晋太郎元外相は、旧制第六高等学校を卒業し、東大を経て、毎日新聞に入社していた。実は私の父・信正は晋太郎氏の12歳上で、同じく六高を卒業し、京都大学を経て毎日新聞に入社していたので、六高、毎日新聞(二人とも政治部所属)の先輩、後輩の間柄だった。

父からは晋太郎氏の話をよく聞いていたし、私が新聞記者になってからは直接、晋太郎氏の取材を行なったこともあった。そんな関係で晋三氏が小さい頃から私は何度か会っていたし、晋三氏が政治家になって以後は、私は毎日新聞の記者として晋三氏の海外訪問に同行取材をしたこともあった。そんな親子二代の縁があって安倍晋三氏の政治家としての生き方を特別な思いで眺めていたものだった。

安倍晋太郎氏は、首相候補だった。ライバルで田中派の竹下登氏が先に首相になり、竹下首相在任中に晋太郎氏は病に倒れ亡くなったため、首相には手が届かなかった。旧制六高の同窓生は、「六高から首相を出そう」と、当時の財界中心人物の永野重雄氏や金融界の重鎮らが随分と応援し、奔走していたのを思い出す。

六高の同窓生の間で「ごらく会」という懇親会があり、私の父も幹事役をしていたので、「一高や三高からは首相を輩出しているが六高はまだ一人もいない。何としても安倍君を首相に担ぎ出したい」とごらく会が開かれるたびに晋太郎氏が竹下氏の後を継いで首相になることを切望する声があがっていたようだ。当時の旧制六高卒業生の熱の入れ方には特別な思いがあった。その頃は、まさか子息の晋三氏が首相になるとは誰も思っていなかっただけに、当時を思い起こすと歴史の巡り合わせの奇縁に驚きを禁じ得ない。

それだけに、数十年後に安倍晋三氏が首相の座につき、歴代最長の首相を務めた事実と、暴漢に銃撃され亡くなってしまったことには特別の感慨を抱いた。三代以上にわたる政治一家だった安倍家にとって複雑な思いがあろう。また晋三氏の妻である安倍昭恵さんは、私が25年前に創設したシルクロードの国・ウズベキスタンとの友好を深める「日本ウズベキスタン協会」に20年ほど前、入会いただき、協会と留学生との懇親会に晋三氏と共に時々、顔を出されたりしていた。大らかな方で、晋三氏は昭恵さんのことを「家庭内の野党的存在です」と語っていたことを思い出す。

日本ウズベキスタン協会新年会、2006年1月14日開催@日本プレスセンター」安倍晋三氏(当時幹事長)

それにしても、犯人が背後から手製の銃で狙った状況や動機にはびっくりさせられた。アメリカでは大統領が他国を訪問する時は、大勢のSPが付き、事前の態勢についても綿密な独自の調査を行なう様子を何度も見ていたし、大統領が乗る車までも海外に運んでくることがあった。

今回の事件は日本の要人警護の甘さを世界に知らしめたようなもので、自国のトップすら守れない日本に訪問するリスクを世界にさらけ出したことになる。日本の警察はどんな警備計画を立てていたのかと、疑問を持たれよう。日本主催のサミットや首脳会談に今後は大きな懸念を持たれることになりそうだ。警備当局は今後に残すそうした政治的な影響まで真剣に考えているのだろうか。【Japan In-depth 2022年7月17日】

※Japan In-depth様に掲載いただいたページでは、内容のまとめもございます。合わせて参照ください。

トップ画像:1984年のロンドンサミットでの日本の記者会見の模様(Trust House Foete / 第二次中曽根内閣時代)前列左から二番目が安倍晋太郎

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