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深掘り・楽典講釈 #2 音名

音名

ドレミの起源

 ドレミの起源は、中世の聖歌のひとつ『聖ヨハネ賛歌』(Johannes-Hymnus)の各フレーズの歌い出しの言葉からとられています。

 歌詞とその意味は
Ut queant laxis   あなたのしもべが
Resonare fibris   声をあげて
Mira gestorum   あなたの行いの奇跡を
Famuli tuorum   響かせることができるように
Solve pollute    私たちのけがれた唇から
Labii reatum    罪を拭い去ってください
Sancte Iohannes  聖ヨハネ様

 冒頭の「Ut」はフランス語やイタリア語で「ド」を表す言葉。
最後の「シ」は聖ヨハネという聖人の名前を直接使うわけにはいかないので「聖人(Sancte)」の頭の「S」と、「ヨハネ」のラテン語綴りIohannesの「I」とを合わせて「SI」シとしました。
 その後「Ut」は発音しづらいので、イタリアの音楽理論家ドーニの名前から取られたと言われています。

 この時代の聖歌は、単旋律で斉唱をするスタイルでした。
楽譜も今とは違い4線紙の「ネウマ譜」でした。

 楽譜の先頭にある記号は音部記号で、これは「ヘ音記号」です。
この4線紙を現代の5線紙のように見立てるとこうなります。

 つまり、歌い出しのUtは「ド」になります。

各国語での表記

 音楽の世界では「ド」より「」の方が重要です。
たとえば、調律やチューニングするときには「A音」を基準にします。また、音響物理現象を数値で表わす時もA=440Hzを基準にします。それに比べるとC音は261.・・と永遠と少数が連なるので使いづらい。(詳しくは別の機会に)
 そこで、かつてドイツ語圏では、この「ラ」の音を出発点としました。したがって、ラから順番にアルファベットA,B,C・・・と並べていきます。だからドはCになるのです。憶える必要はありません。忘れたら、ラシドレ・・と書いて、そこにABCD・・・と並べて書けば良いだけです!

   イタリア語 :Do Re Mi Fa Sol La Si
   ドイツ語 : C D E F G A H
   英語 :   C D E F G A B
   日本語 :  ハ ニ ホ ヘ ト

 英語も、ドイツ語と同じく「ラ」から順番にスタートです。
英語とドイツ語は親戚関係なので同じように書きます。音名を示す場合は大文字で書きます。英語はドイツ語と違い「ABCD・・・」と素直です。
 
 ドイツ語で「H」(ハー)が使われるのは歴史的な意味があります。
歴史的に黒鍵が初めて取り入れられたのはB(変ロ)の音です。大昔は平均律ではないので音の並びに整合性を持たせるためにB音が必要になったのです。その際に「ロ音」は「堅いB」(または、「四角いb」)として特殊な記号が使われていました。ただ、活字にはそれがないのでもっとも近い「h」が使われていました。

 で、黒鍵の「変ロ」の方は「柔らかいB」として小文字の「」が使われました。本来は小文字の「h」だったのですが、いつの間にか大文字でも「H」を使うようになり、それが固定されて今に至っています。
 そして、この「堅いB」つまり「」は、当時の臨時記号の記譜法として使われはじめ、このhから「」や「」記号までもが誕生しています。で、下げる方は、この「」が使われているのです。

 日本語は、イロハニホヘトです。
日本に大量に西洋音楽が渡ってきた明治期に、アルファベットの音名を見て「いろは」を音名にしました。いまなら「あいうえお・・」なっていたかも。
 戦時中、教育を受けた方は「ドレミ」ではなく「イロハ」で曲を憶えました。なので、太平洋戦争当時、南太平洋の島々、たとえばパラオなどで日本の教育を受けた方々は、いまでもイロハで歌が歌えます。考えれば、日独伊三国同盟(1940-45)なので、「ドレミ」は同盟国イタリアのものなのですが、軍人には西洋ものは区別がつかないので、一律使用をしていなかったようです。

音階の各音の名称

 楽典の書籍で、まず、いけてないのがこの部分の説明です。
 #1で語りましたが、西洋音楽を輸入した際に、その本質的意味を分からずに取り入れてきたのでこうなってしまったのです。悲しいことに、これは現代でも続いています。
 たとえば、ヨーロッパに留学する学生が、入学時点でドイツ語とかフランス語とかペラペラでしょうか?結局、留学しても、現地語は分からないので英語になります。英語と言っても、片言過ぎて教師が何を言っているのか理解は出来ません。そうなると教師の方も、日本人の学生には言葉で多くを伝えることは最初っから断念しています。
 でも、そうした彼らが帰国をすると「ドイツではね・・・」とか語り、霧の中の状態で掴むこともできず、結局自己流の解釈を、さも現地ではこう教えていますとわかりきったかのように発言します。なので、楽典の中にはおびただしい数の「間違い」が今でも存在するのに、受験科目になっていますから・・・。

 西洋の音階では、音階の位置によって名前がついています。
そのもっとも中心となるもの主音と呼びます。

 次に、主音を中心として上下に完全5度の音程の音。
これを(上)属音下属音と呼びます。上属音の「上」はほとんどの場合省略されます。

 さらに、この属音と主音との中間の音。主音より上にある中間の音は上中音(じょうちゅうおん)、下にあれば下中音(かちゅうおん)と呼びます。

 最後に、音階でまだ名付けられていない2つの音。2音目と7音目。
まず、主音のひとつ手前の音は、その役割から導音と呼びます。
 音程関係も役割もなく残った主音のひとつ上の音は仕方なく上主音 と名付けられました。

 これを日本の楽典の譜例のように並べ直してみます。
日本の楽典の本にある譜例で、なぜ上下の位置が逆で、下にあるのに「上中音」であるのかとか意味がわかりません。
 西洋の楽典では、音程の項目でも「主音」が中心に書かれています



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